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エピローグ











「そろそろ行こうか」


車椅子に座ったままのランボに、沢田が声をかける。ランボはぽうっと窓の外を眺めているだけ、聞こえた様子は無い。扉に寄りかかっていた沢田は、後姿のランボに歩み寄った。開けっ放しの窓からはほんのり初夏の匂いがする。明るい陽の光が、意外なほど病室に似合っていた。


「行こう、ランボ」
「……ツナさん。はい、行きましょう」


それでようやく気付いたようにランボが振り返り、にっこりとわらった。髪を耳にかけている。露出している耳には補聴器。ツナが車椅子のストッパーを足で外し、ハンドルを握って押していく。4ヶ月、慣れ親しんだ病室をランボは沢田の体越しに振り返った。


「十代目、俺がおしますよ」
「…大丈夫だよ、俺がやりたいんだ」


後ろからついてきた獄寺が交代を申し出る。沢田がやんわりと笑ってそのまま押し続けた。白い壁と廊下、椅子がゆるやかに背後に流されていく。


「…すみません、ご迷惑をおかけしてしまって」
「うーん、迷惑ならもういっぱい被ってるけどなあ。これくらい迷惑のうちにもはいらないよ」
「ほんとうにありがとうございます」


真剣な顔でランボが振り返った。沢田がどういたしまして、とわらう。


「その補聴器、調子悪いの?」
「いえ、大丈夫です。…どうしてですか?」
「ん、さっき聞こえてなかったみたいだからさ」
「あ、すみません。ぼーっとしていて」
「大丈夫ならいいんだけどね」


…飛び降りた時の後遺症で、耳が聞こえづらくなった。それでも、命があるだけまし。俺は随分と馬鹿なことをやったと思う。心の底からおもう。おれだって飛び降りるのは死ぬほど怖かったし。実際本当にやめようかとなんども思ったけど。あのときはそれしか打開策がなかった。あの、地獄のような(実際に地獄)拷問のことは思い出したくもないし、今でもたまに夢を見る。 でも、
でもあのことがなければ、今の俺はなかったし。すくなくとも、今みたいな関係ではなかった。俺と、リボーンは。だから俺は、今全てのものに、あの忌々しい記憶にすら感謝をしたい。どこまでも幸せだと思えるから。
ひとりでふふ、と笑う。沢田もそんなランボをみて、くす、とわらった。


「幸せそうだね」
「…幸せです」
「良かったんだよね、これで」
「もちろんです」


沢田がゆっくりと車椅子を押す。四ヶ月の間で内部を知り尽くしてしまった院内が視界の端に消えていく。


「よー、ランボ」


ロビーに着いたところで山本が煙草を消して立ち上がった。横には、いかにも無理やりつれてこられたと不機嫌そうな顔の雲雀と、手を振っている笹川の姿があった。


「小僧は外にいるぜ」
「ありがとうございます」
「つーか、小僧と住むんだってな。ボンゴレじゃなくて」
「はい、その申し出はとってもありがたかったんですけど…」


言い出しにくそうに、ランボがはにかむ。


「やっぱり俺には何でお前がリボーンと住むのか分からんが、まあ退院おめでとう」


笹川がにかっと笑う。ランボがこまったようにわらった。


「ほんとうに彼でいいわけ、変わってるね」
「雲雀さんも来てくれたんですね」
「まあ別に君が退院しようがしまいが、興味ないんだけど。そこの馬鹿に無理やりつれてこられた」


不機嫌そうに言い捨てる。山本がわらった。


「どーせほとんどの奴はこれねーんだから、いーじゃねえか」
「ボヴィーノの人たちこれなくて残念だったね」
「仕様がないですよ」
ボヴィーノは、ランボの件については沢田が言った様に処理した。完全に表向きだけであって、ボヴィーノのボスを含め構成員たちはよく見舞いに来てくれたのだが。(仕様が無いよね)ランボはまたわらう。
しばしの談笑。ボヴィーノの人たちがきてくれなくても、こうしてボンゴレの人たちが来てくれた。輪の中心で、何年も変わらず繰り返されている中の良さ気なやりとりをほほえんで聞く。ああ、俺は幸せだ。あたたかい春の終わり、初夏の匂い。


「っと、そろそろ小僧待ちくたびれちまうな」
「本当だね、リボーンもここにくればよかったのに」
「照れてんじゃねーの?」


またゆるやかに車椅子が発進する。明るい陽が差している、自動ドアの向こう。片目だけの視界でも、その片目も随分と視力がわるくなったけど。平和な音を立てて自動ドアがスライドする。駐車場の向こう。ぼやけた視界のなかでも、はっきりと分かる。


「リボーン!」


唯一残った左腕を限界まで上げ、ぶんぶんと頭上でふる。あっぶねー、と当たりかけたのか獄寺の声が聞こえる。沢田が、くすくす笑った。山本もわらう、笹川も。雲雀も苦笑。黒いスマートな愛車にもたれ掛かって煙草を吸っているリボーン。いつものようなスーツではなく、幾分着崩したような私服。
大声のした方向に顔を上げた。尚もランボが手を振り続けている。馬鹿な奴、そういってリボーンも煙草を吸いながら苦笑した。


「リボーン、元気だった?」
「一昨日会ったばっかじゃねーか」


そばばまで来たランボの頭をかるく小突く。ランボが大げさなリアクションを取った。みんながわらう。


「じゃあ、ランボをよろしくねリボーン。まあすぐに会うことになるけど」
「…ああ」
「あんまラブラブすんなよー」


山本がひやかして、ランボがまたはにかんで笑う。ランボを補助席にのせ、てきぱきと車椅子を折りたたんでリボーンが運転席に乗った。最後に補助席の窓が開く。ランボがしあわせそうにわらった。


「それでは、ありがとうございました」
「うん、元気でね」
「はい、ツナさんも。みなさんも」
「おー、じゃーな!」
「またすぐに会うでしょ」
「幸せにな!」


ランボがにっこりと笑って、補助席の窓が閉まった。みながばらけていく。車がゆるやかに発進した。沢田はひとり、その場にのこってふわとほほえむ。


「どうしたんですか?十代目」
「…若いっていいよね」
「はい?」
「ん?なんでもないよ」


はぐらかすようにわらって、沢田が自分の車へとあるいていく。
願うのは、ふたりの幸せと。
…先刻の、窓がしまる直前に見たキスシーンが長く続きますようにということだけ。










































連載終了です。長らくお付き合いくださってありがとうございました。

>>あとがき
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