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終わりは、鮮やかな世界の始まり











白い扉の前で立ち止まって、深呼吸。病院の薬品臭い空気が肺を満たす。リボーンが先刻山本に持たされた色とりどりの花束を、ぎゅっと握る。意を決してドアノブをまわした、そんな心とは裏腹に、がちゃりといかにも平凡な音を立てて開いた。
……違う階の違う部屋なのに。いつか見た光景が鮮やかに蘇る。白いベッドに寝かされたランボは相変わらず青白い。でも頭の包帯や、首の包帯がとれているのは離れていても分かった。眼帯が痛々しい。
リボーンがぎゅっと手を握って(花束から蒼い色の花弁がはらりと落ちた)、また戻ってしまいそうになる足を無理やり進める。
ベッドの脇に立って、ランボの青白い顔を見下ろした。
…近くにいるのに。深く水を湛えた湖を見るようで。水面は静かなまま、波立ちはしない。ああこんなものか、何故俺はこんなにも静かなのか?口が、開いて。また閉じる。まるでその言葉は禁忌のように。それでも、呼べば。何か変わるかもしれない(変わるものか)。






「ランボ」


途端に、どうしようもない感情の洪水が溢れてきて、がたりと横に無造作に置いてあるパイプ椅子に倒れるように座った。信じられない。耐えられない。手を顔の前に持ってきて、声にならずに呻く。指の間から、ランボの顔をまた少し見た。
…なんといえばよいのか
突然襲ってきたこの感情を。少し開いた形の良い唇からは少なからずランボが息をしている事実が分かる。青白いけど、赤みがすこし差した頬も、ランボがまだこの世に存在している事実を全ての、地球上の全ての物体に主張している。ああ、何故自分は今さっき、まったくの無感情だったのか?ランボ、という言葉それ自体が魔法のようで。
これは、よろこびではなくて
歓喜、この、愛。全てにおいていとおしいのか。ショーウィンドウに並べ立てられた、綺麗だけど人間味の無い作り物の愛など、いらない。ああ、そうだ。こいつが、ランボがこの世で、生きて息をしていて。それだけが、どうしようもなく嬉しい。嬉しい。
きて、よかった
顔を覆った手、指を涙が伝う。情けない、女々しい。もうどうだっていいのかもしれない。


「…ランボ」


嗚咽交じりの、掠れた涙声で呟く。濡れた人差し指で、ランボの白い頬に触れた。触れた後に水滴がつく、陽を反射してきらきらと光った。それすらも嬉しい。どうしようもなく、いとおしい。ぐずぐずと悩んでいた自分が馬鹿のようだ。尚も溢れてくる涙を止める気にすらならない。
あの、雨の日に流したような。ランボと居た日々に流したような、無力を嘆く涙ではなく。…もう、
これが愛だとか恋だとかわからなくていい。
だた初めてだと思う。誰かが息をしているだけでこんなにも嬉しいと思うのは。この歓喜、この愛。ランボの堅く閉じた瞼を軽く触る。目を開けて欲しい。これで、目を開けてくれたなら。もうなにもいらない。ほしいとは思わない。愛人や、ほかの人に抱くような気持ちではなく。胸の中に停滞していたドロドロの感情がひとつの結論を紡ぎ出す。あんな汚らしいものから、ここまできれいなものが生まれるのかと感嘆してしまうくらいに、美しい気持ち。


湿った指でランボの顔を触る。前に、ランボが病室で寝ていた時より、ずっとずっときれいな(これを綺麗だというのかは分からない)気持ちで。こんな簡単なことが何故わからなかったのか、今なら。ツナが言った意味も、殴った意味も。すべてにおいて、理解が出来る。
世界が色を変える。灰色よりは赤に限りなく近い世界は、今ランボを中心に。鮮やかに色を変える。そうたとえば、冬から春のように。


「ランボ」


やはり止らない涙は白い、生活感の無い床に落ちる。


「ランボ…ランボ」


まるで呪文のように。そう呟くごとに世界が色を変える。美しく、かぎりなくうつくしく。かぎりなく赤に近い世界は涙とともにどこかへ流れていく。指が、うつくしい芸術作品を慈しむように、ランボに触れる。ありがとう、と普段はめったに口にしない言葉を何度も口にする、ありがとう、ありがとう。生きていてくれて。
自分が自分ではないと否定することすら、馬鹿らしい。そんなものに固執するべきではなくて。今ここにある現実を、慈しむべきなのだ。


「………好きだ」


口が、自然と紡ぎ出す。
自分が無意識に口に出した言葉すら、なんなく納得する。答えは、自分で持っていた。


「好きだ、ランボ」


黒い髪の毛をふわりと撫でる。しばらく撫でた後、手首を引く。今まで隠れていた目が、閉ざされていた瞼が。綺麗な緑色の瞳が、こちらを向いた。ふわり、とわらう。リボーンが眼を見開いて、信じられないようにランボの顔を見る。


「……またないてるの」


舌足らずな、ゆっくりとした声。緩慢な動作でゆっくりと左手を上げる。流れっぱなしのリボーンの涙を掬った。


「リボーンはほんとうに泣き虫なんだね、ひとのこといえない」
「………お前、」
「ランボって言ってよ。…ごめん、なんだか俺馬鹿なことしたみたいだ」


ゆっくりと微笑む。リボーンがぐしゃりと顔をゆがめた。


「………あやまるのは、俺のほうだ」
「そうかな、お互い様さ?」
「何ていったんだ?」


はらはらと涙をを流しながら(相変わらず止め方はわからない)、ランボの華奢な手をとった。


「なにが?」
「…さいごに」
「ああ、あれ。…きこえなかったんだ」


ランボがこまったようにわらった。


「…はずかしいから言えない」
「なんだそれ」


リボーンが泣き笑いをする。ランボがまた泣き虫だなあ、俺が慰める側だなんて夢見たい。とわらって涙を掬う。リボーンがいとおしげに目を閉じた。


「すきだ」


ランボがまたきれいにふわりとほほえんだ。


「おれも」





























End...












>>Epilogue
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