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最後の逃げ











何か買ってきたほうがよかったか、そう思った自分に苦笑する。結局は逃げたいだけで。今にもUターンしてしまいそうな足を叱咤する。それでも、叱咤したところで足は前に踏み出そうとしない。……馬鹿だろ。そう思うのだが、立ちっぱなし、馬鹿みたいに突っ立ったまま病院の入り口をくぐれないで居る。そういえば、何号室か聞くの忘れたな(自分で聞けばすむことだ、何逃げようとしてんだ)。あの部屋では、会いに行こうと思ったのに。いざとなると足が竦んで上手く歩けない。女々しい、馬鹿だろう。
突っ立ったままの俺を人が何人も追い越していく。何人かは怪訝そうに俺を見ながら、でも、すぐに歩いていってしまう。どうせ俺がここに突っ立っていることすらすぐに忘れるのだろう。訳の分からない事を卑屈に考えている。ひたすらに卑屈だ。ああもう女みてーだ。自分がここまで情けねーだなんて、考えもしなかった。俺はずっと、俺は。俺はもっと、(何であった?)ああ馬鹿だ。女々しい。
俺は逃げているだけ、自分がランボにしでかした事を見たくないだけ、だ。今ここでもう一度逃げ出してしまうと、二度とこの足はランボのもとへは向かわないだろう。そう、誓ったはずだ。あの部屋に、自分自身に。あの景色に。
ランボがもう一度チャンスをくれるなら、守って見せると。
そしてこのどうしようもない気持ちが恋だと、愛だと確かめる為にも。ここに来たんだ、ランボに合わなくてどうする。それでも、足は前に進まない。小さく震えている手をぎゅっと握る。時間だけが頭上を悠々と通過していく。チクタクチクタクと俺を攻め立てるように、風すらも音を鳴らす。…女々しい、馬鹿みてーだ。


煙草は吸いきってしまった。…買いに、(やべえまた逃げそうだ、今ここを動いたら二度とここへは来れない)。自分のことだから手に取るように分かる、それでも足は前に進んではくれない。冷たい空気が頬を凍らせる。その突き放すような空気の中に、すこしだけ暖かい風があるのが分かった。ああ、春が来ているのか。他人事のように思案して、無意識に振り返った。
振り返った先に、黒い車にもたれ掛かって、一人。黒いスーツを着込んだ体格の良い男と目が合った。綺麗な花束を持っている。


「全然気付かねーのな」


にか、と笑ってこちらに向かって歩いてくる。リボーンが少し驚いた顔を作った。


「いつから居たんだ、山本」
「さあ、五分くれー前かな。お前もランボの見舞いか?」
「…………」


山本が答えない(あるいは答える事ができない)リボーンの髪をぐしゃぐしゃとかき回す。リボーンが迷惑そうな顔をした。


「んな顔すんなって」
「うるせーぞ」
「禿るぜ?」
「おっさんに言われたくねー」


ははっと笑ってリボーンの肩に腕を回す。そのまま歩き出そうとした。リボーンは足を踏み出そうとしない。山本も引っ張られるようにしてそこにとどまった。


「行かねーのか?」
「…………うるせー」
「てかお前飯食ってねーだろ。食えよ」
「……俺の勝手だ」
「まあそーだけどな」


肩をすくめて煙草を咥える。リボーンは苦しそうなゆがめた顔で病院の入り口を見ていた(まるで、地獄の門をみている様)。山本はそんなリボーンの横顔を、珍しく真剣な顔で見ている。煙草が半分燃え尽きた。


「……………逃げんの?」
「……なっ」
「まあお前の勝手だけどな。…お前が逃げたいってのも分かる。俺だってそーだろうし?」
「…………お前も、」
「俺らは似たモンどーしだからな」
「どこが似てんだ」


怪訝そうな顔で振り返った。山本がにかっと笑って、煙草を消した。


「似てんだよ、なんつーか。基本構造が一緒っていうか。まあそれは置いといてだ。お前はランボが好きだ、それはもう決定事項だ。でも、それが愛か恋かって言われると、そーでもねーんじゃねぇの。つーか、愛だとか恋だとかって捉え方なんざ千差万別だろ。大事なのは今どー思ってっかだ。お前は逃げんのか、否か。ランボをもう一回守りたいんじゃねーの?まあ、目ぇ覚ますか分かんねーけどさ。…俺としてはやっぱ行ったほうがいーと思う。てか、逃げんな」
「…………分かってんぞ、んな事ぐれー」


逃げるな、そう言った山本の目がやけに印象に残った。ずっと動かなかった足が、あっけなく、驚くほど普通に進む。ゆっくりと歩き出したリボーンを立ち止まって見送った後、山本がその背中に声をかけた。手に持った美しい色合いの大きな花束を、綺麗な放物線を画いて投げる。ぽす、とリボーンが両手でそれを受け取った。


「俺は用事できたから、行けねーわ。それ持ってけ。んでランボによろしくいっといてくれ」


そう踵を返して車に戻る山本の背中を、リボーンが苦笑してすこし見送る(ランボは寝てんのにどーやってよろしく言うんだよ)。リボーンもまた踵を返して、地獄の扉のように感じていた、ただの自動ドアをくぐった。






山本が運転席の扉を開ける。助手席には、彼のボス。スモークガラス越しに、沢田はずっと彼らのやり取りを見ていた。沢田はリボーンがきちんと病院の扉をくぐるのを見届けた後、山本の方を振り返ってにっこりと笑う。


「ありがとう、山本」
「どーいたしまして」
「山本が居てくれて助かったよ。リボーンは絶対にひとりじゃ逃げてただろうから」
「てか、何で小僧をここまでランボのとこに行かせたがんだ?まあ、小僧にとっちゃ大事なことだろーけどよ」


くすくす、と沢田が笑う。


「さあ、どうしてだろうね」
「最近ツナよくはぐらかすよなー」
「そうかな?」


またスモークガラス越しに病院を見た。綺麗に笑う。


「…きっと、ランボにとっても大事なことなんだよ」
「ふーん、目え覚ますとか?」
「さあね、それは分からない」
「……へえ」


山本が分かったようなよく分かっていないような顔でアクセルを踏む。真っ黒な車は騒がしいストリートに向かってゆるやかに、発進。










































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