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小さな明かりの兆し











……もうまる二日、寝ていない。沢田はふわぁと大きく欠伸をして、がりがりと頭を掻いた。薄く隈の浮いた顔は、いかにも寝ていない人の顔で。…獄寺くんが心配するなあ。でもその前に、もう一仕事。思い切り伸びをする、草木も寝静まる丑三つ時。まあ、そんな事イタリアの人は言わないんだろうけどさ。バサリ、大勢の顔写真の乗った書類の束から新しいものを引き出す。
リボーンが、いくら変装をしていようと見分ける自信ならあった。もちろんあいつの節操の無いコスプレは何年も見てきたからっていうのもあるけれど。リボーンがランボを連れて逃げた時、実を言うとショックだったんだよね。なんて、思う。俺はリボーンを心の底から信頼しているか、と聞かれれば。うん、してるよ。と答えられる。それは今もか、と聞かれると考え込んでしまう。俺をここまで育ててくれたリボーンには、心から感謝しているし、信頼もしている。…それを、こういう形で。裏切りという形で終わらせたくは無かった。肝心のランボが、もしボンゴレの情報を喋っていたら、俺は殺さなくちゃならない。それがケジメをつけるって事で、リボーンもそれは重々承知のはずだ。…殺さなくちゃならない。




裏切られたときは、正直ショックだった。




それでも、今俺は純粋にあの二人を助けてあげたいと思う。リボーンだけじゃなしに。報復は、もう充分すぎるほどに行われた。俺の代のボンゴレじゃあ、ありえないくらいに。殆どはボヴィーノがやったんだけど、もちろん指示を出したのは最高権力者である、俺。ランボのあの無残な姿は、もう思い出したくも無い。あんな死体、生きてる人、実際たくさん見てきたはずだし。それでも、やっぱりそれがランボだというのが、一番の理由だろう。それから、自覚も無しに憔悴していくリボーン。…きっと、
きっとリボーンなら、ちゃんとランボの世話をしてくれているだろう。でも、今この胸にある不安は、何?早く見つけないとという気持ちばかりが先走る。…何故?
二人とも、無事で見つかって欲しい。
もし、無事で見つかったのならそこからは俺の出番だ。どうにかして、二人を助けてあげられたら、と思う。やっぱり俺は贔屓かなあ。マフィアのボスがこんなので果たして、いいんだろうか。相変わらずドン・ボヴィーノは目覚めてくれないし。むしろ六発くらって生きてるほうが奇跡だよ。
パラパラパラ、リボーンが変装しているであろう美しい女性の顔を、何百人何千人の中から捜す。きっとリボーンはもう見つかることを覚悟しているんだろう、逃げようとしてもこの街からは逃げられない。そういう風に俺は網を張ったから。


「失礼します」


コンコン、と扉を叩く音。続いて廊下の暗闇に浮かび上がるアッシュグレイの髪。


「……お休みになってはいかがでしょうか」


俺の顔をみて、一番に心配そうな顔で言った。すこしわらう。


「言うと思ったよ」
「思ったのならお休みになってください、この間のように倒れられたら困ります」
「ボスが敵の銃弾で倒れるんじゃなくて、過労で倒れるなんて情けないし?」
「……そういう事を言っているんじゃありません」
「分かってるよ」


分かってるならそんな事をおっしゃらないでください、 続きのセリフが簡単に読めた。口を"わ"の形に開いた、と同時にネクタイと掴んで口を塞ぐ。すこし長いキスの後。


「うん、充電完了。さあ続けようっと」
「…お休みになられてからにしてください」
「休憩なら今取ったよ?」


獄寺くんは、俺の体の事となると一向に引き下がらない。それでも、今回ばかりは俺も引き下がるつもりは無い。早く見つけないと。焦燥感が濃くなる。そんな俺の気配を察したのか、獄寺くんは心配そうな表情を作った後、新しい書類を机の隅に置いた。


「ああ、ありがとう」
「リボーンさん達が心配なのは分かりますが…どうかほどほどになさってくださいね」


釘を刺して、部屋から出て行く。よくみると獄寺の顔にもうっすらと隈が浮かんでいた。
よく言うよ、自分だって寝てないくせにさ。くすりとわらってまた新しく積まれた書類に手を伸ばした。このところの、警察その他相談所の通信記録。まあ、こんなところに乗ってるかは分からないけど、大量の住人から探すよりはいいかな。もしかしたら、怪しい隣の住人についての通報があるかもしれないしね。…また徹夜かな。大きく欠伸をする。
暫くして、また扉が開いた。山本の精悍な顔が覗く。


「まーだやってんのかツナ」
「ああ山本、どうしたの?」
「朗報だ」
「え?」
「ボヴィーノんとこのボスがお目覚めだ」


にやり、と笑って(何故だか山本の笑い方はリボーンに少し似ている)ベージュ色のトレンチコートを沢田に向かって投げた。沢田は小さく頷いて、自分の(おそらくこれからの自分の地位を少なからず危うくするであろう)決心を確かめた。

























「……ドン・ボンゴレ。この様な姿で申し訳ない」


ベッドから起き上がらずに、沢田の手を取ってボヴィーノボスが甲にキスをした。弱弱しい声に、沢田は心配そうな顔をした。窓の外はまだ暗く沈んでいる。


「ご無事で良かった、ドン・ボヴィーノ。ランボの事は、お聞ききになられましたか」
「ドン・ボンゴレの手を煩わせるような事になりまして、申し訳ございません」
「……実際、手を煩わせているのはうちの者です。ランボのせいではありませんよ」


出来る限り、優しい声をだす。もちろん本当のことだ。


「見つかりそうですか」
「ええ、一日以内には必ず見つけてみせます」
「…そうですか」
「目覚めたばかりに、この様な話を持ってきて申し訳有りません……その件で、頼みごとが有ります」


一瞬だけ、老人の憔悴した顔に複雑な表情が浮かんだのを、沢田は見逃さなかった。近くにあった椅子に座る。真剣な表情を作った。どれだけ考えても、これしか思いつかなかったからね。…後々面倒になりそうだけど、仕様が無いし。


「私に出来る事なら何でも、」
「…………ランボと、リボーンを見逃してあげてください」


沢田に対して部下達がやるように、深々と頭を下げる。後ろに控えた獄寺が小さく驚いた表情を作った。山本が言うと思った、という風に笑う。


「…頭を上げて下さい、ドン・ボンゴレ」
「勝手な事を言っているのは、重々承知です」


頭をあげ、まっすぐに老人の落ち窪んだ目を見た。沢田の目には、ボスとしての威厳と決心が満ちていた。


「掟は絶対、もちろん分かっています。…ランボは十中八九オメルタを破っているでしょう」
「……十代目」


これ以上は言ってはいけないとばかりに口を開いた獄寺を、山本が左手を上げて制止する。


「あなたがおそらくランボのせいでここに居るのも、もちろん承知です…金ならいくらでも出しましょう。見逃す事による起こるであろう様々な問題の責任も、全て俺が被ります。」
「………」
「部下達には、ボンゴレに脅されてとおっしゃって下さい。誓約書を書きます…どうか、ランボとリボーンを見逃してやってください。恩は一生忘れません」


また深く頭を下げる。ボンゴレボスが頭を下げる、それがどれだけ重い意味を持つのか、マフィアなら理解するはずだ。


「ドン・ボンゴレ。あなたにそう言われると、断る事はできません」
「……なら」
「もちろん、そうします。……ただ、」
「ただ、何です?」


少し口ごもる。沢田が目の奥に心配そうな色を灯した。


「たとえ、私が殺されようとも。私はあなたにそう頼まれるまでもなく、ランボを助けるつもりでした」


優しい(マフィアのボスではなくて)我が子を思う父親のような表情を作って、ドン・ボヴィーノがすこし笑った。沢田も、にっこりと笑う。椅子から立ち上がった。


「そうとなったら、急いで見つけます。ドン・ボヴィーノはここで体を休めていてください。……お大事に」


踵を返して、早足に歩き出す。山本と獄寺が後から、同じく早足で歩いていった。
少しだけ、肩の荷が下りたとばかりに沢田の足取りは軽い。










































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