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笛吹き











どこかで笛が鳴っている。
ヒューヒューと引き攣れるような高い音。まだ半分夢に浸かっている頭は、笛吹きのイメージを作りそれがケタケタ笑いながらひどく耳障りで壊れているような音の笛を鳴らした。…止まらない、そのイメージが終わっても。一秒ごとに夢から引き剥がされていく感覚は、この世に生れ落ちた時羊水から引き離された感覚に似ている気がした。それならば、人間は夢を見るたびに死に、起きるたびに生を授かるのか?
馬鹿げてる。
覚醒するごとに流れ込んでくる思考を、天井を見ることで遮った。闇に浮かび上がった天井は、寝る前と同じくオレンジ色のストーブの明かりで小さく照らされていた。ヒューヒュー、笛が鳴っている。…違う、笛のハズがねぇ


「…ッ」


勢いよく起き上がって、か細い音を立てる方向に大またで歩く。あっというまに着いたそこは、ベッド。一人の男が苦しげに呼吸していた。ヒューヒュー、喉が鳴る。 …喉笛が鳴っているのなら、笛には違いねーな。なんて場違いな事を考えてるんだ?ランボが苦しげに身を捩じらせる度に、ベッドがギシギシと音を立てた。生理的な涙が目の横を伝って、耳に流れ込むのが見えた。
リボーンが激しく身を捩じらせている、ランボに馬乗りになって口を塞いだ。バタバタ、と苦しげにランボに左手がリボーンのシャツを掴む。口を塞いでいない方の手で、ランボの左手をベッドに押さえ付けた。
しばらくして、喉笛が鳴る音が止んだ。ランボはハッハッとマラソンを走り終えた選手の様に、肩で息をしている。涙と汗でぐしゃぐしゃになった顔は、苦しみからか高潮していた。


「……落ち着いたか?」


ランボの上半身に馬乗りになったまま、リボーンは肩で息をするランボを見下ろした。


「…今、の、・・・何」


言葉を、切れ切れに喋る。眼からは(感情的とは違う)相変わらず生理的な涙が流れていた。


「過呼吸だ」
「…か、こ…吸…?」
「……パニック起こしたら、なる。もう大丈夫だ」


薄くなっていた、初めの日にランボに付けられた歯型。リボーンの右手にまた増えた。血が滲んでいる。ランボがきちんと喋れる事にほっとしたのか、リボーンは小さく溜息をついた。そして、ランボの左手首を随分ときつく握っていた事に気付き、手を引っ込める。


「パニッ、ク?」
「ああ、そうだ」


寝ている間に夢を見たのか、それとも。それとも、
…俺のせいではない。
そう考えても考えても。どうしようもなかったのだ、そう思い込んでも無駄だ。ランボを上から、見下ろす。オレンジの小さな明かりに照らされた高潮した顔、苦しげにひそめた眉、涙。ハッハッと未だ荒い息遣いが聞こえてくる。
それが、ひどく扇情的に見えた(馬鹿か、俺は何を考えてる?)。


「…まだ苦しいか?」


自分を振り切ろうと、声を出す。出た声は、案外普通でほっとした。


「………も、嫌、だ」


途切れ途切れ、呼吸の合間合間にランボの小さな声が聞こえた。


「ランボ?」
「…も、嫌。…パニック、って、何だ、よ。…もう死ぬし、か無いじゃな、い」
「何言ってんだ」
「ボスが死んじゃった、ボスが、死、死んじゃ、った」
「違う、何言ってんだ、まだ死んでねぇ!」
「…嘘だ、嘘、だ。死んだんだろ!?は、ボ、ボスは!」


呼吸がまた荒くなる、この分だとまた過呼吸起こすかもしんねーな。…言葉が、足りなかったのか?きちんと説明した、寝る前に。こいつを落ち着かせて風呂に入れた後。説明したハズだ。もしかしたらもう死んでるかもしんねーが、俺がランボをここに連れてきた時は生きていたと。説明した、ハズだ。
もう、何を言っても聞きゃーしねぇ。…始めに嘘をついた俺が、悪いのだ。ちゃんと、怪我はしてるが生きていると言えばよかった。荒い息遣い。


「ころして、よ。…は、じめからそう、するべきだったん、だ!殺してよ!ボスが居なきゃ、そんざ、い価値が、」
「ランボ、お前のボスは死んでねぇ!」
「……うあああぁあああぁあああああああああああああぁぁぁぁぁああああああああ」


ランボの手と、足がバタバタ、と物凄い力で暴れる。未だ上に乗ったままのリボーンが、必死でそれを制した。


「ランボ、ランボ!」
「も、う、嫌だあぁああああぁあああああああぁああぁぁぁぁぁ」


ヒュ、ヒュー、不規則にまた笛が鳴り出す。ボロボロとランボが涙を零した。枕に落ちる。またリボーンが自らの手で口を塞いで、しばらく待つ。堅く、眼を閉じていた。馬乗りになったままの体が、何度もベッドの外へ放り出されそうになった。


「ランボ……頼むからッ」


苦しげな荒い息遣いが響く部屋に、リボーンの悲痛な声が木霊した。馬乗りになったままの体制で、ランボの鎖骨辺りに顔をぶつけ。上下する胸の振動が、直接伝わってきた。ランボの左手を拘束したまま、薄く汗をかいた首元に顔を埋める。


「ランボ・・・ッ」
「…………殺し、て、」


ランボの言葉を紡ぎかけた口を、自らの口で封じる。深く、貪る様に。苦しそうだったランボの顔が、さらに歪む。長い口付け、ボロボロと生理的とも感情的ともいえる涙がランボの眼の端を何度も流れ落ちていった。ぽたり、とランボの頬に雫が落ちる。……リボーンも、泣いて、いた。
ランボは眼を大きく開けて、同じく眼を開けたままのリボーンと至近距離で見詰め合った。苦しそうに、ランボの胸が何度も何度も上下に動く。
リボーンが歯型の付いた華奢な手を、ランボの白いシャツのボタンにかけた。…永遠に終わりそうも無い、口付け(と言うよりはもっと乱暴な暴力的な何か)はそこで糸が切れたように終わった。


どちらも。ひとことも、喋らない。
リボーンはランボの顔のすぐ横に手を付いて、今にも鼻と鼻が触れそうな位置で止まっていた。枕が涙で湿っている。ぽたり、ぽたり、ランボの頬にリボーンの涙が当たっては流れていった。


「…………頼むから、」


ぽつり、涙で震えた声が響く。ランボの眼の端からも、涙がこぼれた。


「頼むから」


また首筋に顔を埋める。


「…………殺して、なんて言うな」


ぐしゃり、ランボの顔が歪んだ。










































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