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「…………」


ベッドに座り込んだまま動こうとしないランボを横目で見る。ジュージューとフライパンの上では炒めた肉が、良い匂いと音を出していた。ランボの頬には未だ涙の跡が有り、目は赤いままだ。
リボーンは無理やりに目を逸らし、目の前の料理に集中する。
どうすればいいのか。どうするべきなのか、まったくもって分からない。今まで生きてきた中で、これほどまでに分からなかった事があるだろうか?誰か分かるのなら答えを教えて欲しい。明日を、無事にこの部屋で過ごせるのかも分からない。…この部屋で過ごし見つかるのを待つ、殺される。ランボを連れて逃げる、見つかって殺される。ランボをボヴィーノに返す、ランボは殺される、おそらく俺は助かる。
…それでいいんじゃねーの。
脳の隅に浮かんだ言葉を全力で掻き消して、否定する。
このままランボを殺してやった方がいいんじゃねーの。
無理だ、嫌だ。目の前のフライパンだけが、やけに平和な音を立てていた。もう外は暗く沈んでいる。買ってきたストーブを、ベッドの横に置いているので、キッチンは少し肌寒い。 味付けをし、皿に乗せる。我ながら見事な出来だと、思う。今までで、自分に出来ない事など何一つなかった(と思う)。それが、今直面している現実。どこまでも不可解で、何をしても八方塞。俺に何が出来る?どうして、人を一人守るくらいの事ができねーんだ?
そう、たった一人。大勢や、ましてや国家を守れだなんて訳ではない。たった一人の男。…自分は、無力だ。
そう考えた事など一度もなかった。でも、今直接脳が理解する。…この無力感。


「ランボ」


もう何度目の食事になるだろう、まったく動こうとしないランボの肩を掴む。ランボは無反応。まるで、一番初めにここに来た時のようだ。


「ランボ」
「…………」


何を考えているか到底計り知れない、深い目の色の先は、暗く沈んだ窓の先。


「…窓に、何かあんのか」


ベッドに腰掛け、ランボに向かって微笑む(否、微笑んだつもり。実際どういう表情なのかは分からない)。
少し身動きをすると、二人分の重さに耐え切れずパイプのベッドがギシリと軋んだ。


「…………」
「外、見てーか?」


泣き腫らした目のまま、ランボはこくりと頷いた。俺の声は聞こえてるみてーだ。
…まあ、夜だし。最上階だから、そんくらいでバレはしねーだろう。立ち上がって、窓を開ける。凍りつくような風が髪の毛を攫って、部屋の中に充満した。…本気で、寒みーな。 ランボは寒さはまったく気にならないように、ベッドに足を下ろす。立ち上がって、またぐらり、とこけ掛けたのをリボーンが掴んで、窓まで連れて行った。外は、さすが郊外といったところで、人一人として通っていなかった。…身を刺すような風にぶるりと身震いをする。
ランボは、乗り出すようにずっと向こう側を見ていた。何処をみているのかは、分からない。


「風邪引く、もういいだろ?」


またこくりと頷いた。リボーンが窓を閉めて、またランボを抱きかかえるようにベッドに連れて行った。


「体冷えてんじゃねーか、あたれ」


そういって、ランボをストーブの前へ連れてくる。小さく震えているランボは特に何の抵抗もせず、素直にリボーンの導くままに毛布を羽織ってストーブの前に座った。 リボーンが立ち上がって、作った料理を持ってくる。


「ランボ、腹減ってんだろ」
「…………」


放心したように、ストーブの向こうの火をずっと見ている。…こちらを見向きもしない。リボーンは弱く唇を咬んで(何しろ、こうなったのは少しだけでも俺のせいなのだ)、ランボの隣に腰掛けた。


「悪かった」
「…………」
「ランボ」
「……あんたがあやまる事じゃないんだよ」


どこか舌足らずに聞こえる声で、蚊が鳴くようにランボが呟いた。


「おれが全部、わるいんだ」
「違げーよ、お前が悪いんじゃねぇ。お前をそういう風にさせた奴が悪りーんだ」


そう言いながら、もし俺とランボが見つかって殺されるのなら。その前にこいつを拷問した奴らを殺す時間を貰おう、そう決心した。…俺が、思いつく限りの惨たらしいやり方で、殺してやろう。もし、ツナ達が先にやってねーんならの話だが(でも、もうやってるかもしんねーな)。
乾いた涙の跡に、また一筋涙が伝う。


「食えよ」


口を開こうとしないランボの薄い唇をスプーンで軽く突付く。ほんの少し口を開けたので、そこからリゾットを入れた。咀嚼しようとしないランボを、目で促す。喉仏が上下に動いて、…どうやら飲み込んだようだ。
ほっとした顔を作って、もう一度スプーンでリゾットを掬った。ランボに食べさせようと、口の近くまで持ってくる。…同時に、


「…ッ・・ぅえッ…ぇえ゛ッ」


吐瀉物が出す独特のツンとした匂いが広がった。一瞬、理解できずに固まる。未だ苦しそうに咳き込むランボの背中を叩いた。胃の中ものを全部吐き出すつもりなのだろうか、気持ち悪い色のどろどろした液体が床に広がった。
見ていられなくなって、リボーンはランボの背中をさすりながら、目を逸らした。
どれだけ時間がたったのか、完璧に胃の中のものがなくなったのかランボが息を荒くして、肩を上下させている。一分も、たっていないのだろう。でも、リボーンには数時間もそうしていたように感じた。その一分に満たない時間は、リボーンの脳髄を完璧な失望と無力感で満たすのに充分すぎるほどの時間だった。吐瀉物の匂いが充満する。


「……大丈夫か?」


大丈夫な訳ねーのに。涙目で、苦しそうにランボが息をする。ゲホゲホと咽る。
…俺は、こんなことぐれーしかできねぇのか。背中を撫でる事しか、できねーのか。唇を強く咬む。ふと、口の中にすこししょっぱい味がした。


"泣く"なんて、もう何年していなかっただろう。いや、泣いた事なんて、両手で数えられるくれぇだ。
それでも、これほどまでのの失望と絶望で泣いたのは、初めてだと言い切れる。静かに、嗚咽さえ漏らさず呆然と涙を流した。止め方が、分からない。血の止め方なら、嫌ってぐれー知ってんのに。涙の止め方が分からない。
ああ、分からないことだらけだ。…どうすれば、いい?もし神がいるのなら、教えてくれ。何でもいい、この涙の止め方でも、この状況の改善方法でも。
咳が止まったのだろう、まだ苦しそうな顔をしたランボがリボーンの頬に手を伸ばした。背中を擦る手はいつの間にか止まってしまっている。ただリボーンも、放心したように遠くを見つめて静かに涙を流していた。


「…………なんで、あんたが泣いてるの」


不思議そうな顔(それでもまだ苦しそうだ)で、涙に手を伸ばす。


「夢をみてるみたいだ、…あんたが、なくなんて」
「止まらねぇ」


感情を込めずに、そう呟く。ランボが、泣きそうな困った顔で微笑って涙を拭った。


「……ごめん、ごめんね…ごめん」


足を少し引きずりながら、リボーンの近くでそう呟く。
ぽろぽろ、またランボの目から大粒の涙が流れ出した。静かに、嗚咽さえ出さずにストーブの前で二人の男が、泣いていた。








どれくらいの間、そうしていたのだろうか。リボーンが気付いた時には(どうしたのか分からないが)いつの間にか涙は止まり、ランボはリボーンに寄りかかって静かな寝息を立てていた。起こさぬように静かにランボを抱き上げ、ベッドに寝かせる。床に広がったままの吐瀉物を片付けて、ソファに寝転がった。
まったく手の付けられていない料理たちは、ラップをかけられて並べてある。
そんなことをしても意味ねぇのに。まったくもって、意味がないのに。…どうせ、明日か、あさってか。見つかるだろう。…殺される。 別に、自分が命を失う事に対しての恐怖は無かった。ただランボがいなくなってしまうことに対しての、深い恐怖だけが胸の中でぽっかりと穴を開けていた。そうだ、考えてみよう。



何故こんなにもランボを失いたくなのか?



幼少の頃から、どこまでもウザかっただけの筈なのに。…やはり、いくら考えても答えなどでない。闇に目を凝らす。ストーブのわずかな明かりだけが、部屋を照らしていた。
どこまで考えても、答えは出ない。ただ残るのは、"失いたくない"その気持ちだけ。どうすればいいのだろうか。
ふと直感めいたひらめきが脳を走った。…ツナに聞こう。自分の生徒に、こんなことを聞くのは癪だが。そもそも、どうしてツナに聞こうと思ったのかも分からない。ただ、ツナなら明白な答えをくれる筈だ、と思った。


「………くそっ」


どうにもならない現実が、闇という形を保って襲い掛かってくるような気がして、ソファを強く叩いた。…ぼふ、という平和な感触。
毛布の中に頭まで潜り込んで、堅く目を閉じた。…当分、睡魔は襲ってきそうに、ない。










































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