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ぐるぐるり











「……Oh,god」


力をなくして床に座り込む初老の男を(いや、もう老人か?)横目で見やる。幹部数人が気遣うようにかがみこんでいた。その横で医師が淡々と喋り続けている。沢田は眉を少しひそめ、それでも背筋を伸ばしたまま表情をほとんど顔に出さずに医師の説明に耳を傾ける。


「-―‐‐−で、左目は眼球そのものがありませんので、もう視力が戻る事はありません。右目も傷が入っているので、視力は弱くなるでしょう。右腕は義手を入れることも不可能な状態です。左足も再生は不可能。内臓も-‐-」


明日の天気予報を読み上げるキャスターみたいに、淡々と紙を読み上げる声を半分聞き流す。リボーンは我冠せずといった風体で空に向かって煙草をふかした。
…………得体の知れない。気持ち悪い感情が(色にするとどす黒いああまるで俺の髪の様だ)脳髄を駆け巡る。思わず喉をかきむしりたくなるような、気持ち悪い。………可哀想な奴だ。まあ俺に同情なんざされたくねーだろうが。それより、新しい守護者を探さねぇと(いや、このままいっそ欠番でいいんじゃねぇのか)。集中治療室そう書かれた白い扉の向こうに、見るも無残な姿のアホ牛がいる。ああ気持ち悪い、この脳髄を渦巻くものは一体なんだ?一命は取り留めた、運がいいのか悪いのか。でも、ヒットマンとしてはやっていけない。もちろんマフィアに残る事などできるわけも無い。利き腕を失ったヒットマン。片目を失い、左足も失った。三週間、その間に何をされたのか。………


「誰がやったか、検討はつきます?」


気遣うように、沢田はしゃがみ込んだドン・ボヴィーノに手を置く。にこり、と口元だけで笑った顔がリボーンの立っている位置からでもよく見えた。
………目が笑ってねぇ。ツナがどれだけ怒ってんのかはここからでも痛いほど伝わってきた。そのうち、組織が割り出され、それに見合う報復をし、アホ牛は……、ドン・ボヴィーノの手厚い保護のもと、何も心配する事の無い世界で残りの人生を過ごすのだろう。
ぐるぐるり、脳髄に感情が渦巻く(俺はこの感情の名前を知らない)。今、この状況から確かな事。………もうアホ牛が俺を殺しに来ることはない。ああ喜ぶべきなのだ。
やけに息苦しく感じて、ネクタイを緩めた。
ツナが何か獄寺に鋭い声で指示を出している、山本が普段は見せないような(とてつもなく黒い)顔でその指示を聞く。特に俺の出番はねーな。
黒い革靴が、コツンと音を立てた。出口を目指す、
自分がどれほどこの病院という建物の中で異質な存在か、痛いほどに分かる。死神のような(実際にも)服装は、あまりにも不釣合いだ。かといって天使でも病院にゃ皮肉だな。ぐるぐるりと馬鹿みたいな戯言が脳髄の端に浮かんでは、溶けていく。
この俺が何を考えてる?何を思ってる?何が言いたい?何をすべきだ?何も出来ないのか?









「小僧!」
「…………何だ」


山本がぽすん、とリボーンの肩に手を置いた。どうやら追ってきたらしい。リボーンはふ、と眉を顰めて振り返った(小僧って年じゃねーぞ)


「いや、だいじょーぶかなと思ってな」
「俺が大丈夫じゃなかった事があったか?」
「ん、今がそうじゃねぇ?」


また不機嫌そうに眉を潜めて歩き出す。
誰が大丈夫じゃない?何に対して大丈夫じゃねーんだ?


「違う」
「………ふーん」


この男は。
納得したようなしていないような顔で、黒い青年(まだほんのカケラだけ少年が残っている)と肩を並べて歩き出した。


「何処行くんだ?」
「散歩だ」
「…………はは、気楽でいーな」


煙草を咥えて出口に向かう 山本は山本でやることがあるらしいな。………こいつが実は獄寺よりも、ヘタしたらツナよりも実力があることは知っている。何より、俺が選んだ。


「ランボ、どーなんだろうな?」
「どうなるも、復帰は不可能。残りの人生はボヴィーノに保護、だろ」
「やっぱそーかな」


悲しそうに笑う横顔にチラリと目線を移動する。
何がいいたい?


「寂しくなるな」


……ぐるぐるり
気持ち悪い。


「そーか?」


吐き気をこらえて出口へ向かう足を速めた。早く新鮮な空気の場所へ。吐き気がするのはこの場所のせいなのだ。吐き気がするのはここがあまりにも俺に似つかわしくないからなのだ。 かちゃかちゃ、山本が歩くたびに腰に刺した刀が小さく音を立てる。いつもは少し好きだと思うこの音さえも、いらだたしい。ぐるりぐるり。
ぐるぐるり


「じゃーな」


背中を向けたままひらひらと片手を上げて、山本は俺から離れていった。
すこしほっとする(これはほっとするという感情か?)ああもう何も分からない、分からなくていいのか、それとも。吐き気を押し戻すつもりで深くニコチンを体内に取り込んだ。










































>>V
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