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「ハヤトは、兵器なんだ」


シャマルが静かに口を開いた。
あまりにも突拍子がない言葉に、シャマルの顔をまじまじと見る。そんなこと、あるわけがない。…兵器?よっぽど間の抜けた顔をしてしまったんだろう、シャマルがあーっと濁った声を出して、ボサボサの頭をひっかきまわした。(更に髪の毛がひどい状態になっている)


「説明は得意な方じゃねえんだ」
「…あんたが一体何を言ってるのか、全然分かんない」
「ま、信じるも信じねえもお前の勝手だ。俺は話せる限りを話すだけ」
「……………」


白いベッドに視線を落とす。先刻、倒れた後にまたここで目を覚まして、とりあえずはシャマルの説明を聞くことにしたんだけど、…シャマルなんて、信用できやしない。大体、兵器だなんそんなの、全身タイツの地球防衛隊が実在すると言われるくらい、ありえないことだ!(本当に、そう思ってる?)
頭がひどく痛む。


「この国が戦争をしてたのは、知ってるだろ。半年とちょっと前だ。あの戦争に、ハヤトは兵器として駆り出されたんだ」
「…ちょっと、待って。そんなのありえない、だってゴクデラくんが兵器って…そりゃあ、透明にはなれるけど!」
「兵器って聞いて、まあ強そうな戦車だの高性能な戦闘機だの思い浮かべるのは勝手だけどな。あいつは、実際に自分でも数えきれねえほどの人を殺してる」
「………そんなの、」
「信じねえか?」


言葉を先回りして、シャマルが続けた。
そんなバカみたいな話、漫画じゃないんだから、信じられるわけが無い!大体、そりゃあ兵器ってきいたら俺じゃなくたってもっと醜悪な、鉄の塊を想像するに決まってる!ゴクデラくんが、仮に兵器だとしても、……あんなに優しい人が?ダメだ、ダメだ。あまりに突拍子もない話についていけていない頭が、それでもこの話は真実だと理解しようとしている。
ふいに、昔ゴクデラくんと喋っていた時に、…戦争の話をして、人が死ぬ話をしたときに、どうしようもなく泣きそうな顔をしたことが頭に蘇った。


「透明っていうのは、それだけで武器なんだ。今は透明でもあいつの体には触れられるが、前はまったくもって存在自体が透明だった…異国にあいつはスパイに出て、情報を流してたんだ。核爆弾が異国に落ちたってのを知ってるか?」
「……知ってる」
「あれは、俺たちの国がやったんじゃねえんだ。自爆、つうか自分で自分の国に落とした。その核爆弾のスイッチを押して、軌道を歪ませたのはもちろん、ハヤト達」


頭が、痛い。比喩的な意味じゃなく、本当に。がんがんと内側から、金槌で暴力的に殴れらているような錯覚に陥った。核爆弾を落とした?大勢殺した?そんなの、全然、わかんないよ!何で。"どうしてそんな状況に居るのかとはお話できません"筆跡が蘇る。
この話を裏付けてしまうような、ゴクデラくんの行動が蘇る。


「あいつは、ショックが重なって失声しちまった。まあいくら透明になったつっても、人間だからな。何度も脱走しようとしたし、ひどく抵抗したこともある。実際に、ここの研究員は2人殉職したしな。あいつは、戦争中ずっと催眠をかけられて、拘束されてた」
「……ひどい、そんなの……そんなのって」
「普通ならそう思うだろうな。ここの人間は、そうは思ってねえ連中ばっかだ…人間は、モルモットとしか思ってねえよ」
「…………ゴクデラくんは、もとから透明だったわけじゃないんだろ。それに、さっきハヤト達って言った、まだゴクデラくんと同じような人が居るんだね」


気付くと、シーツを堅く握りしめていた。頭はまだ、ひどく痛む。シャマルのあまりにも、真剣な様子に俺まで飲み込まれていたことに気付いて、小さく頭を振った。そんなの信じて良いわけがない、そんな話がまかりとおるのは、ドラマのなかだけなのに。
現実に、そんな話があっていいわけ、ないのに!


「そうだ…みんな、死んだがな。実験は、失敗だったんだ。ハヤト達は身体強化をされて、透明人間にされた。お前が今座ってるベッドも、元はハヤトと同じもう死んだ仲間が寝てたんだ」


ギシ、と自己主張をするようにベッドが軋む。みんな、死んだ?みんな、死んでしまった?
嫌な予感がして、ひやりと背筋が冷えた。熱に、苦しむゴクデラくんの顔!シャマルは少し俯き気味で、ベッドに視線を落としている。途端に、とてつもない嫌悪感に襲われて、目を閉じた。
静かな沈黙が訪れて、続きを促すように(信じては、いない)シャマルの方を向くと、シャマルがまたがしがしと自分の髪の毛をかき回した。


「……お前も、そのひとりだった」
「……………え?」
「透明人間適正実験、ここじゃあ0112プロジェクトつってるがな。…133人の被験者が居た。みんな身寄りのねえ、孤児院から集められた10歳以下の子供だったんだ。その中に、ツナとハヤトも居た」


静かに、語る。淡々と、感情を乗せていない口調で、テレビのナレーションのように。
ひどい頭痛。視線を落としていたシャマルの、死んだ魚みたいな目の中にある感情の名前を、俺は知らない。嫌悪感、と吐き気に苛まれて、無意識に口の中でゴクデラくん、と呟いた。


「6歳からの記憶がねえっていうのは、それなんだ。お前も薄々気付いてただろうが、事故なんかじゃねえ。お前とゴクデラは同じ孤児院にて、ふたりとも被験者に選ばれた」
「………え?」
「…つくづく、ツナは、ラッキーだったんだろうな。被験者のうち、たった8人が完全な透明人間になった。まだ右も左もわかってねえような、ちっせえ子供が。お前は、その実験過程で記憶が飛んだんだ。透明人間には不向き、とされてここから締め出された」
「ちょっと、待って」
「…133人の中の、たったひとりの生存者だ。ハヤトを入れれば、2人」


嘘だろ、と声にだそうとしても、掠れた息しかでてこなかった。
動悸がする。フラッシュバックするように、目の前を様々な光景が蘇った。断片的に、古ぼけたアルバムを捲っているように。ただ、完璧に思い出しは、しない。俺は、こいつとこの気味の悪い真っ白な空間に毒されているだけだ。日光の当たらない、この部屋に毒されているだけだ。
いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、いたいよ、かえりたいよ、と泣き叫ぶ声が耳の奥で再生される。自分の、荒い呼吸音はどこか半透明のフィルターを通して、聞こえた。


「他の被験者は、実験に耐えられずに死んだか、適正無しと判断されて殺された。本当の話だ、お前が信じるならな」
「…………信じない、そんなの。信じるもんか!」
「ま、それでもいい。お前とハヤトは仲が良かった。孤児院で戦争の真っ最中だからな、異国人とのハーフで捨てられたハヤトは、誰にも相手にされちゃあいなかったんだ。ツナだけが、唯一ハヤトに話かけてたな。あいつは、その事をずっと忘れてなかった。ハヤトはずっと、お前は死んだと思ってたらしかったが、俺の机に置いてたお前の孤児院の資料で生きてることを知った」
「…………」
「俺は、ハヤトがこの施設から逃亡した時に、お前んとこに行ったと分かってたんだぜ?上には報告しなかったけどな」


…初めて、会った日の出来事が綺麗に蘇る。
俺を見て、とてつもなく吃驚した顔をしたあとに、泣き出しそうな顔をしたんだ。雨だから、よく見えなかっただけで、本当は泣いていたのかもしれない。
信じるな、信じるな、こんなことが現実におこってたまるか!…ゴクデラくんの行動がシャマルの言っているところの事実と綺麗に有っていて、真実だととらえそうになる。そのふたつが俺の脳みそを、ひどく揺さぶり、まだ鈍く痛む頭を刺激した。
ゴクデラくんから、直接、聞かなければ信じられないよ。そんなの!


「ツナが俺を嫌ってんのは、俺がお前を担当した実験者だからだろうな。お前だって、なんとなくは覚えてんだろ」
「……………」
「あいつの仲間はみんな死んだっつっただろ」


聞きたくない、と思った。耳を塞ごうにも手が重くていう事を聞かない。嫌だ、いやだ、とまた叫ぶ声。


「理由は、分かってない。初めの一人は、戦争中に高熱を出して死んだ。それを引き金に、次々、透明人間になった子供達は高熱をだして死んだんだ。いくら薬を与えようと、何をしようとみんな例外なく死んでる」
「それが、なんだっていうんだよッ」
「………ハヤトが、ここまで生きながらえられたのは、奇跡以外の何者でもねえんだ」
「…ッ」
「施設の連中は、みなハヤトに最後の望みをかけてる。ただ、実験の成功例としてな。人間を助けたいって気持ちではねえ。だから、本来人間にする治療じゃなく、透明人間実験を未だにあいつにやってんだ。あの部屋を見ただろ?」


急速に、意識が遠のいていく。必死で、頭を横に振り、シーツを爪が食い込むくらいきつく握った。
思い出すのは、何かの椅子に座って、そこに何人もの人が、上から俺を覗き込んでいる。みんな一様に、ひどい目をして、俺をみていた。蔑むでもなく、祝福するでもなく、…なんの感情も移していない、ただの好奇心を孕んだ目。俺を、人間だと認知していない目で白尽くめの人たちは、ぼそぼそと俺にはよくわからない単語を発した。


「あいつは、本当ならもう死んでた。お前と、どっかの宿屋に泊まってる時に、死んでなきゃおかしかった」
「………嘘、だ」
「本当だ…もう死に掛けてた。あそこまで、生きてたのは信じられない事例なんだ」
「ゴクデラくん、…は?」
「死ぬだろうな」


明日の天気は、晴れのち曇り。それくらい、なんとも思っていないような口調で、シャマルが続ける。
呆然とする俺の横で、遠くを見るような目をしながら、白い壁を見ていた。


「ここまで言えば分かっただろ」
「…何を、」
「…ここは、帝都にある国家直属の第一軍実験施設、だ。お前達は、政府に追われてた。本当なら、殺されててもなんらおかしくなかったんだって言っただろ」
「…………政府、?」
「そうだ。俺は、政府直属の第一級国家医師。頭脳と知的好奇心をもてあましてる国中のマッドサイエンティストを金で雇って、この0112プロジェクトを作ったのは政府だ」


死刑宣告を聞いた気分になった。
俺は、政府に追われてた。否、今もきっと追われてる?分からない。ゴクデラくんは、死に掛けてる。俺の記憶、政府が行った人体実験?被験者?そんなの、って。漫画でしか、読んだこと、ないのに!ありえない。そんなの、信じたくないよ。
ゴクデラくん、お願いだから、お願いだから嘘だって言ってよ。ゴクデラくんは、どこ?死んでしまう?死んでしまう?そんなの、認めない。絶対に、認めるもんか。
意地を振り絞って、シャマルの顔を睨む。ふう、と小さく溜息を吐くのが分かった。


「Fact is stranger than fictionって知ってるか?…事実は小説より、奇なり。信じるも信じねえもお前の勝手」
「………いやだ」
「おいおい、拒否したところでかわんねえよ。俺は、事実を言ったまでだ」
「……俺を、殺すんだね」
「何でだ?」
「そんなにペラペラ、それが事実なら喋れるわけが無い」


立ち上がって、出て行きかけたシャマルが振り返って目をぱちくりと瞬かせた。


「別に、殺しゃしねえよ」
「じゃあ、それは嘘だ」
「…言い換えるとな。お前みてえなガキがひとり、そんな話をしても誰が信じる?よく出来た小説の筋書きか、気が狂ったと思われるのが落ちだ。国っつーのは、そんなもんだろ?」


肩竦めて、シャマルがスリッパを引きずる音が遠くなっていく。
吐き気がする、頭が痛い、ゴクデラくんが死ぬ?俺が被験者の生き残り?信じられない信じられない信じられない、信じられない信じられない信じられない
信じるもんか!















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