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タタン、タタンタタン。タタン、タタンタタン。
一定のリズムを刻む。大きく、それでも耳障りにならない程度には小さいその規則的な音は、ぼんやりと聞いていると眠気を誘われて、ついうとうとしてしまう。むりやり首を振って、つい意識が飛びそうになる身体を起こした。
なるべく、遠くに。なんだか子供の家出レベルだけど、俺たちは(いや、俺は)よくわからないものから逃げている。いつの間にか、まったく見たことの無い景色が窓の外をびゅんびゅんと通り過ぎ、駅のたびに止まっては、降りたり、乗ったりする人たちを眺める。俺たちの乗ってる車両には、5人人が乗っていて、学生服姿のカップルに、杖を持ったおばあちゃん、スーツを着たサラリーマンに、音楽を聴きつつ身体でリズムを取っているお兄さん、が居る。きっとその中の誰も、思いもつかないだろう。声の届く範囲に、同じ車両内に、俺たちのこの奇特な逃避行があるって、ことなんて。
6人しか乗ってないはずなのに、7人目が居るって。
沢山席が空いているのに、ひとりつり革に掴まり立っている俺を、すこし不審に思いこそすれ、誰も気には止めないだろう。なるべく不自然に見えないようにゴクデラくんの手をきゅ、と握り締めたまま、だますように変わっていく見知らぬ景色を眺める。
初めは座っていたのに、一度ゴクデラくんが座っている場所におじさんが座りそうになって、慌てて立ち上がったとき以外は、変な行動は、していないはずだ。改札を通るとき、すこし苦心したけど。それも大丈夫。
そっと、横を見る。本来なら、ゴクデラくんの胸の少し上が見えるであろう場所には、そこを通り越して、すこしいちゃつき気味のカップルが見えた。けらけらと、可笑しそうにわらっている。…彼らも、きっとここに人が居るなんて、思いもしないんだろう。
…どんな顔をしているんだろうか、今どんなことを考えているんだろうか。ゴッと風の音がして、トンネルに入った。大きな窓に間抜け面をして立っている俺の顔が鏡みたいに写った。でも、隣にいるゴクデラくんは、相変わらず写らない。
本当なら、今すぐにでもノートを取り出して、何を考えているか聞きたいのに、今ここでゴクデラくんにノートを渡したら、とてつもなくホラーで大騒ぎになるだろう。やっぱり、喋れればよかったなあとは、思うけど。ここで何もない空間から声が出てきたら、それはそれでホラーかもしれない。大騒ぎになる風景が頭に浮かんで、くすりとわらった。


…あ、今ゴクデラくんがこっちを向いた。不思議なんだけど、もうほとんどまる一日一緒にいるだけで、何故か彼が何をしたか、分かるようになってしまった!人間の順応性ってすごい!第一、俺は丁度一日前、まだゴクデラくんが透明になるって知らなかったのに、もうそれが不思議じゃなくなってるし。
そうか、まだ一日しか立ってないんだ。随分と、長い。長い、一日だった。でも、それはこれまでの俺の薄っぺらい人生のどんな一日にも叶わず、すてきな一日だったような、気がする。 またゴッと空気の音がして、一気に視界が開けた。
橙色の光に、目が眩んで、一瞬目を閉じる、容赦なく西日が身体を焼くのを感じた。目を伏せたまま、また物思いに浸る。
俺は、電車なんて遠足の時以外しか乗ったこと無くて。大抵の事は、あの街で用は足りていたし、他のクラスメイト達は、終点にある繁華街へ遊びに出かけるみたいだけど、俺にはそんな風に遊ぶ友達なんて居なかったから、こんな風に電車に乗るのは、初めてだ、と思った。
大きな電車の表の見方がよく分からなくて、でも恐らく一番遠いんだろう、一番高い聞いた事も無いような名前の駅の切符を買って、電車に乗り込んだ。だんだん、過ごした街から遠くなっていって、一体全体、俺は何処へ行こうとしてるんだ?なんて、あたりまえの疑問が浮かんだ。
それと芋づる式に、このお金でそんなに遠くまでいけるわけがない、不安がじわりと侵食する。そんな時は、なるべくゴクデラくんに身体を近づけ、少し力を込めて手を握れば、ああやっぱり、なんだってできそうな、気がする!
そろそろ、何本も乗換えをして、ようやく読み方の分からない、むずかしい名前をした駅に着く。どんなところなんだろうか、寝るところは、あるんだろうか。すこし不安と、期待を込めて、ゴクデラくんのほうをみてにこりと薄く笑顔を作った。なるべく、口を動かさないようにして、喋る。


「もうすぐ着くね」


丁度、ゴクデラくんを通り過ぎた先に居たカップルの、セーラー服を着たほうが俺をちらりとみて、それからまた学ランを着た人との会話に興じる。特に、何も不審がっては居なさそうだ、ただ、目が合っただけなのにすこしびくりとする。
ゴクデラくんが、小さく俺の手を引っ張った。びっくりして、じい、と顔があるはずの場所を見ると、ずっと窓の外を眺めたまま、みたいで、俺も容赦なく照りつける橙色の光の方を見た。


…畑が広がっていた。その向こうに、逆光で黒く塗りつぶされた街があった。…その向こうに、まるで昔みたサヴァンナの映像みたいな、ばかに大きい真っ赤な夕日がぐらぐらと揺れていて、俺も、ゴクデラくんと同じように呆気に取られて、それをぼう、とみる。
ちかちか、と目が太陽に焼かれ、少し視線をそらすと、ゴクデラくんがこっちを見ているのに、気が付いた。


「すっごいきれい」


そういうと、何故だか、彼がすこしわらった気がした。
ぷしゅう、と間抜けな音を立ててドアが開く。終点を告げる、これまた気の抜けた放送が単調に流れ、同じ車両に乗っていたひとたちも重そうに腰を上げ、出て行く。俺は、ぐらぐらと尚も揺れる太陽をもう一度、みた。
そして、ゴクデラくんの手を引いて、(今度は、抵抗せずにすんなりとついてきてくれる)見知らぬプラットホームに降り立つ。
寂れたどこかの歯医者の看板に、緑の蔦がはびこっている。他の車両に乗っていた人たちが、俺たちの目の前を知らん顔をして早足でとおりすぎていく。
どこかわからない土地の空気のにおいが、した。















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