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「ようツナ、元気そうじゃねーか」


…途端に、生理的嫌悪感がぞわぞわと背筋を這う。相変わらずくたびれた白衣に無精ひげの生えたやる気のない風貌。思わず引き返してしまいそうになるのを、シスターに止められた。


「それでは、わたしはこれで失礼します。綱吉、きちんとお父様と話しなさいね」
「嫌です。シスター、客がシャマルだってどうして言ってくれなかったんですか!」
「…言えばあなたは来なかったでしょう?それでは」


ぺこり、とシスターが頭を下げ、パタンと扉が閉まった。溜息を吐き、小ばかにしたような笑みを浮かべるシャマルをじとりと睨んだ。


「…何しにきたんですか」
「相変わらずひでえな。用がなきゃ会いに来ちゃまずいのか?」
「用があってもあなたに会いたくないです」
「おいおい、親に向かってその口の聞き方はねーだろ」
「あなたは親では有りません。第一、血も繋がってないのに」


できるだけ距離を開けて立ったまま喋る。にい、と笑った顔にまた嫌悪感が背を這った。
…最悪だ。最悪。俺は、どうしてこの男が嫌いなのか自分でも分からないけど、初めて会った時から大ッ嫌いだった。生理的に受け付けない。よれよれの白衣に無精ひげ。相変わらずの風体に吐き気すら覚える。レインマンも来ないし、暑いし、シャマルが来るし。
ああ、本当に最悪。でも、本当に最悪なのは俺だ。俺の中の醜いこの感情、嫌悪感。こういうものが存在するからレインマンを傷つけた。…最悪。でも、いくら普通に接しようとしてもシャマルだけは好きになれそうにない。どうしてかは、分からないけど。


「何の用ですか」
「んー、元気にしてっかなと思ってな」
「この間、俺の近況を聞きに来たとシスターが言ってました。何か用があるんですか」
「まあ、あるっちゃあるけどな」
「何ですか。さっさと用を済ませて帰ってください」
「…俺も嫌われたモンだなー」


ぼりぼりと頭をかく。でも、実際そんなこと毛ほども気にしていないようにまたにやりと笑った。ぞわぞわ、と不快な感情。
レインマンはこんな風に人を嫌う俺を軽蔑するんだろうか?…こんな時でも、やっぱりでてくるのは彼の顔。ああ、そういえばシャマルの話をしたことがあったっけ。レインマンはすっごくあせったような顔をして、暗い顔をしたんだ。それから、俺はシャマルの話をしなかったけど。……やっぱり、こういう風に人を嫌う俺を醜いと思ったんだろうか。
今になって彼のいろんな表情から、本当にいろんなことが読み取れた事が分かる。俺は、やっぱり自己中心的で。彼のことなんてなんにも考えてなかったんだ。ただ、話し相手が欲しかっただけ。


「…………」
「暗れー顔してんな」
「…関係ない」
「まあ、そうだけどな。っても目の前でんな暗い顔されたら気になんだろ」
「何しに来たんですか、シャマル」
「おー、嫌われてんなー。おじさん悲しい」


おどけたように言う。不快と、そのふざけた態度へのイライラが募っていく。それと、もともと不安定だった精神が加わって爆発寸前。俺は、こんな人間で有りたくないと頭が叫ぶ気がした。でも、やっぱりこの人だけは嫌いだ。


「いい加減にしてください」
「随分機嫌が悪りーんだな」
「用は何ですか!」
「………あいつが何処にいるか知らねーか」


ふっと口を噤む。先ほどまでのおどけた雰囲気が一瞬にして消え、シャマルの眼に珍しい真剣さが宿った(初めて見たかも知れない)。


「…あいつって誰の事」
「灰色の髪の毛、緑の眼」


平坦な低い声が言う。…目を見開いて止まった。先ほどまでのイライラが身体の下にすとんと落ちて足の裏から地面に吸い取られる。どうして、シャマルが?そんなの、灰色の髪の毛に緑の眼なんて。レインマン、しかいない!な、と口がよく分からない驚きの声を出して、すぐに口を閉ざした。こいつが、レインマンを知ってる?何で?
動揺する俺を、シャマルがひどく冷めた目で捕らえた。


「知ってんだな」
「……………」
「何処に居るか教えちゃくれねーか、早く見つけねえとやべーんだ」
「……知らない」


できる限り冷たい声をだす。何で、どうしてと疑問が渦巻く。なんだか、犯罪を問い詰められてる犯人の気分だ、俺はなんにもしてないのに。いや、俺はレインマンを傷つけた。いや、でもいまこれに関係あるわけ!?ああもう全然わかんないよ。てゆーか、なんでシャマルが彼のこと知ってるの。…もしかして、レインマンは追われてた?でも、シャマルに?つーか、俺シャマルが何してる人か知らないし。どういう事それ!


「知らない、ねえ。……じゃあ、結構前に学校で。お前は誰と会ったんだ?」
「誰でもない」
「つーか、別にあいつをどうこうしようってワケじゃねーんだぜ?居場所を教えて欲しいだけだ」
「だから知らないっていってるだろ!?」


声が裏返る。レインマンの居場所だって!?そんなの、分かるなら俺が知りたいよ!どきどき、と心臓が早鐘を打った。シャマルは、俺があの雨の日にレインマンと会ったことも知ってる?てゆーか、居場所を知ってどうするつもり。
…何故だか、ここでレインマンを知ってることを言っちゃいけない気がした。絶対に隠し通さないと、なんて思う。(何故?)


「ま、居場所を知らねーのは確かだろうけどな」


すこし、けん制するようににらみ合った後。溜息を吐いてシャマルが立ち上がった。くたびれた白衣が少しゆれる。


「無駄足だった。邪魔したな」
「…………シャマル」
「何だ?」
「…なんでもない」


ふらふら、と独特の歩き方で俺に近づく。その脇を素通りして扉に手をかけた。…ほっとする反面、たくさんの疑問が残る。なんで、彼の事を知ってるの。あいつ、だなんて。何でシャマルがレインマンをそんな呼び方するの。…意味が分からない。まったくもって。


「ああ、そういえば。…一応、あいつを見かけたらすぐに連絡を寄越してくれ」
「……だから、知らない」
「獄寺、隼人だ」
「え?」


知らない名前が聞こえて、思わず振り返った。すこし勝ち誇ったようにシャマルがにやりと笑う。


「あいつの名前だ、知らなかっただろ」


背中を向けたままひらひらと手を振った。ふらふらと歩いていく。
………獄寺隼人。雨の中で笑う彼の姿が浮かんだ。この国の名前。じゃあ、彼は異人じゃないってわけ?ああでもそんなことを知ってほっとしてるなんて、相変わらず俺は最低な人間だ。


「獄寺隼人」


口に出して言えば、何故だかシャマルが来てトゲトゲしていた心が和らいでいく。名前、この名前が本当かどうかは分からないけど(第一、シャマルは何で知ってるわけ)。レインマンに、その名前はひどく合っていて。とても綺麗な名前だと思った。















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