太陽が迷惑なくらいギラつく。降水確率0%。相変わらず俺は雨を待っている。…希望と絶望を一緒に持って。もしかしたら来てくれるかもしれない、と。もう絶対に来てくれないだろうという半ば諦めに似た感情を持っている。
"あいつは異人と友達だ、気持ち悪い"と喋る視線からは開放された。(それがどうって訳ではなくて)夏休みほど、することがない日々なんてないかもしれない。俺は、ずっと昔から夏休みが好きだった。友達と遊ぶ、とかそういう事をしなかった俺は本当にする事がなくて。でもひとりでいられる時間が増えるから嬉しかったんだ。でも、今は違う。 いつもは大嫌いな学校に行きたい。なにかしていないとどうしても考えてしまう。彼の、泣き顔と笑い顔。俺は、ほんとうに小さな事だけど、クラスメイトたちの視線に晒される事でなんとか君にすこし償える気がしてたんだ。なんて、俺がこんなところでそんなことをやったところで、何にだってならないんだけど。(分かってるんだったら考えなきゃいいのに) 開けた窓からゆるい風は入ってくる。ベッドに寝っ転がったまま団扇で扇ぐ。毎年毎年、こうやって意味のない夏休みを過ごしてきた。適当に宿題をやっつけて、だらだらと日がな一日ベッドに寝転がる。俺には他の人たちみたいにそれを咎める人がいないから。…シスターは感心してないみたいだけど。 でも、全然去年とは違う。
俺は相変わらずふいに泣きたくなって、それをガマンしたり、できなかったりするんだ。もう二日に一回とかそれくらいのペースで。それでずっとあの雨の日のことが頭の中にこびり付いたまま。
コンコン、とノックの音がする。


「入ってもいいですか?」
「…………どうぞ」


控えめな音がして、修道服を着たシスターの老いた顔が視界の端に見えた。ベッドから半身を起こす。


「体調でも悪いのですか?」
「いえ、全然大丈夫です」
「そうならいいんですけどね。朝も昼もご飯を食べていない様でしたから」
「ああ、………ちょっと食欲がなくて。すみません」


ふんわりと微笑して、隣に腰掛ける。しわくちゃの手が俺の手を取って、少し撫でた。


「元気がないようですね。………彼の事があってから」
「……元気がない、ですか」
「ええ。あなたはひどく後悔をしていますね」


今度は俺の頭を撫でる。……本当の母親のようだ。聖母マリアのような、慈悲を湛えた深い目が俺の目を覗き込む。(といっても実際マリアがこんな目をしていたかなんて俺は知らない) 後悔、懺悔。そんなの、いくらしてもしたりない。どうかレインマンが俺の元にもう一度来てくれますように、もう一度。もう一度、どうか。どうか俺を許して。何だってするから。君に許してもらえるのなら。


「…あなたが、それほどまでに懺悔をなさっているのを、主はきちんと見ておられますよ」
「かみさまに、何ができるんですか」
「主は、また再びめぐり合わせてくれるでしょう。…彼と、あなたを」
「……それでも。もし会えたとしても、俺は許してもらえないだろうから」


もし、もしも。また会えるなら。俺はレインマンにまた笑顔を向けてもらえるように、なんだってする。でも、言葉に出すと、それはひどく身勝手に思えて。実際ひどく身勝手で。だから俺は最悪の人間なんだ。


「許してくれますよ、きっと」
「……気休めなら、いりません。俺はひどいことをしました。取り返しがつかない、ひどいことをしました」
「あなたが、そこまで後悔をしているのを、きっと彼は分かっていますよ。大丈夫です」
「断言、できますか」


ふっとシスターが微笑う。


「できませんよ、もちろん」
「なら、俺はもう彼には会えないし、彼も俺に会いに来る事はない」
「……あなたこそ、そう断言できるのですか?」


口を噤む。断言、できるか。そんなのできない。俺の自己中心的過ぎる心の中が許さない。でも、俺はひどいことをしたから、もう会いに来てくれないことだってよく分かる。もし、俺は会いにいけるのなら会いに行きたい。でも、俺は彼が何者で何処に住んでるか。…名前すら知らない。


「分かりません。でも、俺は身勝手で、最低最悪の人間です」
「そういう風に、自分を卑下するものではありません。…あなたは、心優しい人間です。綱吉、あなたの懺悔を主は聞いておられますよ」
「…心優しければ、俺は彼に。せっかく会いに来てくれた彼にあんな事言わなかった!」


叫ぶ。思ったより悲痛な声になって、何故だかそんな自分がひどく矮小に見えて泣きたくなった。…お願いだから、俺にあやまらせてよ。きっと、彼に会えなければ一生後悔する。ずっと、時が忘れさせてくれるなんてありえない。


「彼が好きなんですね」
「……………どういう意味で、ですか?」
「いろんな意味で、ですよ」


ふわりと微笑。シスターが立ち上がった。


「あなたにお客様が来ています、随分待たせてしまいました。行きましょう」
「…俺に?」


一瞬、レインマンかなと思った。その思考を抹消する。今日の降水確率は0%。なんとなくだけど、彼はきっと雨の日しか俺を訪ねてこないって分かるから。















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