……かみさま。俺はひどいことをしました。心の底から、謝罪します。負債をお許し下さい。
なんて、幼い頃から耳に馴染んできた、でもけして使おうとしなかった言葉を呟いてみる。馬鹿だ、ばかみたいだ。そんなことしたって意味がないって。ずっとずっと思ってたじゃない。ざあああああとまたなじんだ雨のにおいがする。
最悪だ。…最悪、最悪、最低。どんな人よりも、誰よりも、本当は俺が最低人間だった。
俺は、ごく普通に生きている。全然普通に。ただ、前よりもクラスメイトからの軽視、軽蔑の視線が濃くなっただけで。そんなこと俺は孤児で、今までにもずっとそんな視線で見られてたから全然、本当に全然大丈夫なんだ。(第一、もうすぐで夏休み)
俺は、本当に俺は最低。最悪。


「…三、回目」


ぼそり、と呟く。突っ伏した机、耳を塞ぎたくなる音がする。ざあああああ、と。湿った暑い空気が気持ち悪い。…台風はもう過ぎた。それでも、もう雨は三回目。レインマンはこない。絶対に来ない。もう諦めが殆どって言うか。それでも窓を見あげてはどきどきと胸が鳴る。
最低、だ。最低。俺のせいなのに、俺が突き放して、俺が。俺が。
もう来てくれない。絶対に。
だって俺はひどいことを言った。…あれから、俺は校長室まで連れて行かれ、でも全然記憶になくて。俺は責めるような質問に自分が何て答えたかもよく分からなくて。ずっと泣いてた。シスターが俺を引き取りに来て、俺はしかるべき処罰とやらを受けて、それでも普通に生きている。
前をまったく同じ色彩のない、平坦な生活の中で全然普通に生きている。ああ、もう最悪。最低。キリキリと胸が痛む。俺は、ずっと君に、レインマンに会いたかったんだよ。大好きなんだよ。なんて、ずっと思ってたくせに。俺は最悪だ。ずっと、他人がどう思おうがいい。レインマンが異人でも、そうでなくてもいい。って思ってただろう?そんなの、自分をごまかしてただけに過ぎなかったんだ。
俺だって、ずっと彼を軽蔑してたんだ。
会いたい、って気持ちに嘘はなかったんだ。でも、雨の日に訪れる変わった"異人"。ずっと、軽蔑してたんだ。心の奥で。気づいてないフリをしながら。全然聞こうとも、知ろうともしなかった。俺は彼が大好きで、でも名前とかなんにも知らないのは、ずっと異人だと思ってたから。考えないようにしてたのに。
俺の中の醜いこの感情を、自分自身で気付くのがいやだった。本当にいやだった。だからあんなひどい言葉を吐いたんだ。もういやだ、なんて。レインマンは俺にわらってくれた。もうあの顔だってみることはない。
こびり付くのは、あの傷ついた顔。雨が頬を伝って涙みたいに見えたこと。多分、
ほんとうに泣いていたということ。


また重たい溜息を吐く。じわじわと鼻の奥が痛くなる。目頭が熱くなる。(今、俺がここで泣いたってなんの意味もないのに)
がらがらと半無意識に目の前の窓を開けた。湿った空気が流れ込んできて、俺は机に突っ伏したまま耳を塞ぎたくなる雨の音に、彼を想像するのだ。どうせ、俺が今顔を上げても雨の中で俺に向かって笑ってくれる彼の姿はない。自業自得、って言葉が今の俺には一番合う。
ざあああ、と雨の音。突っ伏したまま目を閉じる。真っ黒な世界で、雨の中で泣くレインマン。俺は何もできない。俺はひどいことをした。でも、でも。
後悔して、居もしない信じても居ない神様に懺悔して、そんなことしようと彼は帰ってこないって俺自身がよく分かっているのに。よく、理解しているはずなのに。それでもまだ彼に、レインマンに笑いかけて欲しいと思うなんて。彼にまた会いたいだなんて馬鹿だ。なんでこんな、俺は。
会いたい、会ってあやまりたい。君にひどい事を言った。もう君を異人だなんて俺は軽蔑したりしないから。もう絶対にしないと誓うから。だからもう一度俺に笑いかけてよ。君が好きなんだ。俺の唯一の話し相手で、俺の友達で。おれはだいすきなんだ。灰色のその髪の毛も、緑色の眼も。真っ白い肌も。綺麗だって思ってたんだ。
でも、俺は心の隅っこでずっと君を軽蔑してたんだ。もうそのことも全部話すから。全部、全部。だからお願いだから俺を許して。傲慢だって、ほんとうにわがままなんだ。俺。
でも、レインマンがすきなんだよ。
右腕に冷たい感触。一度泣いてしまったら止められない。嗚咽を殺すのすら面倒くさくなって、俺は馬鹿みたいに、幼稚園児みたいに自分が泣くのをどこか遠く(例えば天井)から見下ろしていた。















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