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夢の中で、気を失うなんて変な体験だ。
体が少し起きている感覚がする、それでも頭の中では夢が進行し続けていた。無重力、・・・のような。俺は夢の中で目を覚ます。見覚えのある、(まあそりゃあ昔に体験したわけだし、でも)白いのっぺりとした天井、少し固いベッド。ぎしり、と軋む。
体が自由に動かない、ぎしぎしを節々が痛むような気がした。実際にはこれは夢で痛いはずは無いのだけど。夢の中で、自分の頬を抓ったら痛かったなんて、よくあるはなしだ。ぶつぶつと、小さな声がとぎれとぎれで聞こえた。
軋む体を無理やり起こして、(くらり、と眩暈)ぼやける視界に目を凝らす。なんてことだ、ああ、帰ってきてしまった…!現実のような、ひどい失望感と無力に襲われる。俺のベッドの前には、だらりと手足を投げ出して床に座っている子供。いや、見知った、俺の友達だった。見る影もなく、彼の腕は骨と皮というよりは、すでに骨に近い姿で白い服からちらりと覗いている。何事か、呟き続けている。耳を澄ますと、いやだいやだいやだいやだいやだと繰り返し聞こえた。ぞくり、として頭を振る。
まだ頭が呆けている。ぼやぼやりとする視界と思考を正そうと、自分自身の頭を叩こうとする。けれど、俺はいう事を聞かない。ちいさい俺は、放心したように座ってかつての友達を見続けている。その横には、もう顔すらわからない女の子がくてりと床にちいさな体を投げ出していた。


死んでいる!


即座にそう悟る。がく、がくと体が震え始める。「はやと…!」自分がそう呟くのがわかった。何かに打たれたように、俺はベッドから飛び降りる。白い両開きのひんやりしたドアは、開かないことを知っていた。・・・それでも、必死でこじあけようと少しの溝に力を入れる。それでも、開かない。爪が剥がれそうになって、少し叫ぶ。部屋の中の、明らかに少なくなった子供達は、俺に反応すら、しない。
だんっと拳を作って、ドアを叩く。なるべき大きな音が鳴るように、一回、二回、三回と。脆くなっているのか、皮膚が避けて、真っ白な扉に血の跡が付いた。
自分が、はやと、と叫ぶ声が聞こえる。
ああ、彼は死んでしまう!おそらく、小さい自分の思考から、だんだんと自分が抜けて行く。扉を叩く俺を、今ゴクデラくんの隣で寝ている自分が上から、見下ろす。なんてシュールな光景。夢ならではのその光景のなかで、俺は考える。あの時、シャマルは俺達を追ってきた。
俺は、…多分ゴクデラくんも、シャマルのことが少なくとも嫌いではなかった。彼は、孤児院に偶に顔をだす、よくわからない白衣の人で、でも、彼は俺達に嫌な顔をしなかった。いや、ゴクデラくんを見て、なんの反応もしなかった。ただ、すこし笑っただけだ。
俺達がここに連れてこられてからも、あの人だけは、あのひどく冷たい、ひどい目をしなかった。思い出したくも無いあの実験ですら、彼が参加していた覚えなんて、ない。でも、やはりシャマルは俺達の、敵、だったのだ。だって、彼はゴクデラくんと俺を追ってきて、それで、生気のないどろりとした目を俺に向けて、ゴクデラくんの口を、塞いだ。そして、俺は、ここにいる。


急に意識が自分に(ちいさな俺に)戻った。
皮膚が裂けて、白いドアには赤い擦れたような跡が残っている。急に、そのドアが左右に開いた。俺の目線では、下半身しか見えない。上を見上げると、ひどく生気の無いこけた顔のシャマルが、俺をまたどろりとした目で、見下ろす。
すう、と・・・裏切られたような、気持ちになった。何故か、泣きそうになった。シャマルが一歩、前に進む。少し、ぶつかりそうになったところで、シャマルの足をくるりとよけて真っ白な廊下を走り出す。追ってくる気配は、無い。ちらりと後ろを振り返ると、シャマルと目が合った。
黒々とした目に、激しい怒りの感情を覚える。それと、すこし泣きそうになって、失望感。(それは俺の子供の時の感情で、今、俺の夢の中のシャマルの姿は、何故かとても疲れきってみえた)後ろを振り返ったことで、足がもつれて、リノリウムの床を滑るようにこける。むき出しのやせた膝が、摩擦でひどく痛んだ。
何故か、ゴクデラくんの居る場所は、わかった。ぺたり、と走り出す。急に、キイイイイイイイとひどい鼓膜を破るような、音。すう、と嫌な予感がする。
…急に、目の前が暗くなった。その後、陰気なぼそぼと喋る声。ひどい力に後ろから拘束される。まったく分からない言葉が、(異国の言葉なのか、それとも俺が唯単に記憶していないだけなのか?)後ろからふさがれた目からちらりと見えた白衣の集団の間で交わされる。無理やり振りほどくと、シャマルが、あの俺が怖くて、嫌で嫌でしかたなかった警報を鳴らす小さな装置を持って、遠くに立っている、のが見えた。


急に、場面転換。
眩暈がする。くらり、と。朝、目が覚めた時の強烈な朝日にくらむような、そんな感覚。体が、徐々に起き出してゆく感覚。あまりの眩しさに、目をきつく閉じて、もう一度目を開ける。空けた先には、いつもの木目の天井が見えるはずで、その隣にはゴクデラくんの綺麗な寝顔があるはずなのに。
俺に見えるのは、手術をするときのような、強烈なライト。


「あああああああああああああああアアアッ!」


掠れた声で、自分の絶叫が聞こえる。頭が痛い、痛い、痛くて、痛くて、何も考えることができない!はやと、はやと、はやと、と自分の頭がずっと叫んでいる!ひどい激痛、頭の中で、何かが鳴り響く。俺の周りには、白衣の眼が、俺をずっと監視している。痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!
ふと、歯医者の椅子のような、その俺にとって悪夢でしかないその何度もみた夢が繰り返されていることに気付く!俺の右脇には、シャマルがどろりとした目を俺の顔に向けている。そして、隣の白衣に、耳打ちをする。
あああああああああああああああああああっと自分の絶叫だけが聞こえる。
痛い、痛い、でも俺はこの夢の最後を知っている。俺は、この夢の最後を知っている。そう、もう直ぐ、もう直ぐに俺はこの夢から覚める!ぼろ、ぼろと自分の眼から涙がこぼれている、のが分かった。もう直ぐ、もう直ぐ、もう直ぐ、体中が焼けるように痛い!はやと!
シャマルの声が聞こえる、何て言っているのかは、分からない。最後に見た、彼の顔・・・!なんてひどい顔をしているのだろう、シャマルはひどく冷たい目をして、俺を見下ろした。
そして、弾かれたように後ろに振り返る、シャマルの怒声!俺の絶叫の合間に、また、シャマルが何かを後ろに向けて叫ぶ。他の白衣は、微動だにしない。ああ、終わりだ。夢の終わり。どうして、ここで終わるのだろう、痛い、痛い、寝ているはずなのに、体中が、痛い!ふっと、真っ暗になる。そして、シャマルを押しのけて、俺の絶叫に負けず大きな声で、ゴクデラくんは、・・・小さいはやとは俺の眼を見て、叫んだ。


「つなよし…!」















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