手を伸ばして触れてみると、自分の無骨な指に、日に透けた金髪が、さらりと指を摺り抜けてまた白いシーツの上に散らばった。
豪奢に作られたその部屋は、暑くも寒くもないように、絶妙に空調設備が施されている。落胆の色を含まない、軽い溜息を吐き、鼻の上に乗ったフレームの無い眼鏡を軽く押しあげた。天蓋付きの、そのベッドは、いつか言っていた"どっかの王族のベッドみてえだ"と言うセリフを、思い出させる。何時だっただろうか、たしか、ボスが小さな頃、九代目が誕生日に、与えたものだ。あのはしゃぎ様は、見ていて、ほほえましいというよりは、思わず笑ってしまうものだったか。
もう、何年の付き合いになるだろうか。いや、付き合い、などど軽い言葉で言える間柄ではない事は、重々承知だが。眠り姫、もとい眠り王子(しかし、その繊細に出来た顔は、女に見える様な、時もある)となって、今ふかふかした枕に仰向けになって、頭を埋めている、ボスをまじまじと、見つめる。
何度、もう数え切れないほど悩んだ挙句、もうその事について考えるのは、止めてしまった。決着がついたわけではないが、俺は一生、ボスに、いやディーノ坊ちゃんに付いて行くと、思う。いや、付いて行く。
…自分の、この罪深い気持ちに気付いたのは、果たして何時だっただろうか?着々と、美しく成長を続ける、未来の(そして現在の)ボスに、俺は何度心を揺り動かされたか。そして、不快な絶望に苛まれた。まさか、俺はソドムの末裔だったのか!と。俺は、敬虔なクリスチャンであったはずだし、それは生まれ育った環境が、もともとクリスチャンだったので、刷り込みのように信じてきただけかもしれねえが、まあ、要するに俺はカトリックの教徒だった。自分で、敬虔なクリスチャンと言うのも、凡そどうか、とは思うが。
俺は、その気持ちに気付いてしまった時、長年首にかけてきたロザリオを、暖炉に放り込んだ。それから、一度も教会には、行っていない。マフィアの身で、有りながらロザリオを首にかけ、そのくせ大勢の人を殺してきた俺は、矛盾していたのかもしれない。いや、矛盾していた。俺は、そのロザリオを持つことで、少しは、殺しの罪を償えたつもりになっていただけで、そんなのは空しい自己満足に過ぎなかったんだと、暖炉の中で燃えるロザリオを見ながら、そう思っていた。


ん、と少し声をだして、ボスが寝返りをうつ。ベッドの脇の、スツールに腰掛けたまま、その一挙一動を見守った。そろそろ、起きるはずだろう。いつも通りに行けば。…ボスは、時々、(とはいえその期間は様々で、一週間置きにだったり、三ヶ月ほどなかったりするが)発作を起こす。大抵は、いつものでけえ椅子に座って、書類を読んでいる、時に。
医者が言うところによる、その発作とやらは、急激な不安感や、動悸に見舞われ、呼吸困難になる…ボスは、その場で、過呼吸を起こたり、もどしたりして倒れ、意識を失う。それでも、命に別状はねえらしいんだが。憤り、孤独感、プレッシャー、強迫観念、憎み、それらの要因が絡まって、ボスの症状は、起こっているらしい。それ以外は、持病なんてもってねえし、健康なぐらいだ。
…ボスが、目の前で倒れることは、もう何回もそれこそ、回数を数えられねえくらいに、あった。最近は、昔よりは頻繁に起こってねえが、それでも、すうと体中の血液が凍り、そして足の裏から流れ出るような感覚に、見舞われる。それでも、身体は倒れるボスの身体を支える為に動き、口も、"何時もの奴だ、ベッドに運べ"と動く。それでも、頭は、冷え冷えと、なり、動悸が、うるさい。
何度も、何度もその光景に立ち会う。そして、何故俺はこの人をボスにしたのかと、この人はボスにならにゃあならなかったのかと、深い後悔に苛まれる。それは、ボスの血の一滴、身体の隅々まで、ボスになるための血統が、あり、俺如きが考えたところで、何にもなんねえが。
ボスは立派になったと、思う。でも、心の底では、あの幼い頃の争いを嫌う少年が住んでいて、ボスは始終それと、戦っているのだ。俺には、推測しかできねえが。俺は何年も、幼い頃からそばに居て、何度その重荷を、変わってやりてえと、思ったか。何度、そう思ったか。そんなことできるわけねえが。
今度は、自分自身に落胆を込めて重い溜息を付き、無骨な、手に視線を落とした。俺が、この手で守ってやりたかった。
ボスになりたての、頃は。必死で幼い体で、全ての重責を受け、多くの人を助けた。しかし、助けた分だけ、ボスは人を撃ち、人を殺した。毎日必死で、振舞う若きボスは、俺の胸を締め付けて、そのまま窒息死させるのではないのかというくらい、見ていて辛いものだった。
でも、その頃は、こんな発作など、なかった。
何度も思い出しては、また後悔をする。いや、でも、あれ以外に方法は、なかった。もし、今同じ事があっても、俺は同じ事をするだろう。それが、また俺の後悔を誘発させる。
何人も、殺し、撃ち、老獪な大人達に言葉で嬲られ、それでもファミリーを背負って立たなければというプレッシャーで、まだ十代だったボスは一度、…一度、いつものあの椅子に座っているときに、突如立ち上がって、周りのものを破壊し始めたことが、あった。そこまで、追い詰められていたのか。ボスの精神状態は、それまでいつも通りに仕事をこなし、いつものように笑っていたから、俺は気にして、いなかった。決壊したダムから、水が溢れ出すように、ボスは、急に机の上に置いてある全てのものをなぎ払い、無造作に銃を取り出して、周りの家具に何発も撃ちこんだ。
そのとき、執務室には、俺を含め大勢の部下達が、ボスの指示を仰ぐためにその部屋に集まっており、"もう嫌だ"と泣いて叫ぶボスを、皆で取り押さえ、俺自身の手で薬品を使い、眠らせた。ああ、それがいけなかったんだ。
その日から、ボスは時折発作を起こす。それも、必ず執務室で。…似たような時間帯に。
ボスは、俺たちを守ろうと必死になっていたし、今でも必死だ。(否、今ではもうそれを覆い隠すほどの飄々さを手に入れたが)その証拠に、ボスは俺たちがみてねえと昔の、ドジばかりのへなちょこディーノに戻ってしまう。それでも、もしかするとボスは、本当に深い、一番の心の底では、誰も信用してねえんじゃねえかと、思うときがある。それは、一番長くボスのそばに居る、俺でも、ボスは、一番奥の奥では、信用してねえんじゃねえかと、思う。自業自得だ。
俺は、もう気付くと結構年を食っていて、いい年こいて、何女みてえな女々しい思考をしているのかと、嫌になるが。
ボスが、こんな発作を起こし、倒れるのは、あの日の出来事と、俺たちが何もしてやれなかった事が原因だと、後悔を、する。今更したところで、おせえんだが。


「ロマーリオ」


ぼう、と物思いに耽っていると、声が掛かった。向こうを向いて、寝ていたはずのボスがいつの間にかこっちを向いて、その透き通った目でこちらを見ていた。暗い物思いに沈んだ顔を、いつもの顔に戻し、わらいかける。(その術は、長く生きてきた中で自然に身についた)


「よう、ボス。起きたのか」
「…俺またやったのか」
「まあな」


バツが悪そうに、がりがりと頭を掻いて、起き上がろうとしたボスをベッドに押しもどす。


「まだ寝てろって。今日は何もしなくていーぜ」
「んな訳にはいかねえだろ」
「仕事ならもう今日の分は全部片付いたぜ。後、今日のパーティは欠席にしといたからな」
「…あー、わり」


ぼすん、と深く沈む枕に頭を沈め、溜息を吐いた。いつも、こういう風に、ボスは落ち込む。こういう発作をおこしてしまう、自分自身への情けなさ、からか。…俺は、その発作を原因を作った、自分自身が心底なさけねえ。


「わりいと思うんなら、明日から仕事がまた大量に溜まってるぜ?」
「…容赦ねえなあ」


はは、と乾いた笑い声を立てて、また、静かになった。…半無意識に手を伸ばし、頭をぽんぽんと撫でる。さらりと、また金髪が流れた。


「気にすんなって」
「…いい加減治さねえと。俺だって、もうすぐ20後半なんだぜ?」
「早えな。もうそんなになったのか」
「なんか、お前にこんな風に頭撫でられてると、昔を思い出すな」
「年寄りくせえぜ、ボス」


なるべく、こういうときは、軽口を言うべきだ。と、長い間に心得ている。かえって、俺が黙り込んでしまうと、ボスはさらに深みにはまり、落ち込みに拍車をかける。それが、また次の発作に繋がるのだ。俺はずりいと、思う。"気にすんな"なんて、言える立場じゃねえのに。
今度は、幾分明るい笑い声が響いた。それに、ほっとする。


「俺も年食ったなあ」
「まだまだこれからだろ、ボスは」
「まあ、ロマーリオにゃあ全然かなわねえけどよ」
「たりめえだ、年は追い越せねえよ」


そういう意味じゃねえんだけどなあ、と呆れた声で言い、景気付けるように、笑った。無理して笑っている、と俺は分かっているが、それに口を、出さない。結局、俺は同じ事を繰り返しているだけだ。ボスは、今じゃあ、飄々としているが、内面は昔と同じだという事も、分かっている。それに、口をださない、否、出せねえ。
……結局、俺はボスの気持ちをまるまる、無視するのを繰り返しているだけだ。
今、もしロザリオを持っていたなら、俺は心の底から、神に許しを乞うだろう。そんなことをしても、意味がないと知りながら。


「…ツナには、こんな風になって欲しくねえなあ」


ぼそりと、呟いた。ボスが、必要以上にあのボンゴレの次期ボスを気にかけているのは、自分と似ているからで、そして自分のようになってほしくねえという、気持ちが働いているからなんだろう。事ある毎に、ボスはボンゴレの近況を聞き出し、そして暗い顔をする。
着々と、自分と同じ道を歩いている事を確認するのだ。
そして、いつも言う。"ツナには俺みてえに弱ええ人間にゃなってほしくねえな"


「俺は、ボスみてえになるんだったら、最高のボスになると思うがな」
「…ロマーリオは、そう思ってるんだろうけどさ」
「俺は、ボス以上にファミリーを大切にしてる、立派なボスは知らねえぜ」


ぐしゃりと頭を撫でる。複雑そうな顔で、ボスがわらいがおを作った。溜息を吐き、吐き出すように言う。


「なら、いいんだけどな」
「何弱気になってんだ、らしくねえぜ、ボス」
「俺らしいって、よくわかんねえや」
「ま、いつもどおりが一番だってことだ」


元気出せよ、という風にわらいかける。
よくもまあここまで、厚顔なセリフがでるものだと、自分自身、年を食って老獪になったのか、と呆れ果てる。実際、胸中は荒れ狂っている、というより、寒々しい後悔の念だけが、何時ものように押し寄せている。


「ツナ、元気にしてるよな」
「ああ、リボーンさんからの連絡によれば、元気にしてるそーだぜ」
「そっか、…リボーンかあ。あー、まったなんか言われんだろうな」


今度は、すこし恐怖を滲ませた顔で(恐らく、昔からの習慣だろうが)溜息を吐いた。何であいつって、何でも知ってんだろうなと、独り言のように呟く。


「なあ、俺ちゃんとボスやってるよな」
「もちろん」
「…だよなあ。ちゃんと俺、今ボスやれてるよな」
「珍しいな、ボスがんな事いうなんて」
「俺だって、不安になるんだよ」


なんせ、へなちょこディーノだからな。と今度は自嘲するように言った。そして、遠くを見ていた目を、こちらに向けて、ふっとわらう。顔の、右半分だけ歪ませて笑う、自嘲のようなわらいがおを、ボスはよくする。


「…なあ、ロマーリオ。ディーノって呼べよ」


…幼い頃に戻ったように、伏せ目で頼りなげなお声を出した。俺は、ボスがこういう風にしているところを、俺の前でしか見せねえことに、一種の優越感と高揚感を持っている、が。どきり、とする。ああ、いい年こいて、何やってんだ俺と、溜息を付きたくなることも、ある。
ただ、この思いは、一生誰にも話すことはねえし、墓場まで持っていくだろう。願わくば、自分が死ぬ時は、この大切でかけがえの無いボスを守って死ねたらと、思っている。気付かれないように、すっと息を吸い、ふっとわらう。


「ディーノ」
「……なんだ?」
「おいおい、ボスが呼べっつったんだろ?」
「そうだな」


消え入りそうな顔で、わらいの形をつくる。ボスの、この顔はどうも苦手だ。…心臓がわしづかみにされたような気分になる。この今にも泣き出しそうなこの顔は、身に応える。


「どうした?何か他に悩みごとでもあんのか?」
「ん、目下悩みなのは、この訳わかんねえ発作だけどな」
「…そりゃあ、もっと年食えば、そのうち無くなるだろ」
「そんなモンかな」
「そんなモンさ」


肩を上げて、そう応える。日本には、言霊というものがあるそうで(リボーンさんが、言っていた)、言葉にすれば本当になるそうだ。そのうち、無くなる。俺は、それを期待、している?自分の、失敗と失態を未だ尚訴え続ける、ボスの発作から逃げようとしてるだけじゃねえのか?
俺は、ボスが生まれた頃から、ボスを知っている。赤ん坊だったボスを、あやしたのも俺だったし、学校の送り迎えも、全てやった。だからこそ、俺はずっとボスの幸せを望んできた。ボスが、…ボスになると決心した、あの日、刺青が浮き出たあの日にも、俺はボスが幸せになるんなら、それでいいかと、何もかもそれですませてきた。
実際はどうだ?ボスは、昔のように、あっけらかんと笑うが、顔にはほんの少し影が差している事が、昔から見ている俺には、よく分かる。…そして、発作を起こす。
俺は、いつもボスが、誰かを殺すたび、抗争の後の、無残な風景を無表情で眺めるボスの目を、いつだって優しく塞ぎたくて、仕様が無いのだ。そんなこと、できるはず、ねえが。ボスを祭り上げたのは、他でもねえ、俺たちだ。


「なら、いいんだけどな」
「元気出せよ」
「…あー、うん。そうだな」


納得いかないというような顔で、生返事を返す。
…ボスの気性なら、分かりきっているはずだった。でも、いつもボスは、あっけらかんと笑い、振舞うから、俺はいつも見逃してしまう。些細な、本当に些細な、ボスのSOSを。ただ、分かっても、それに直接手を伸ばすことは、禁じられている。というより、自分で禁じている。
もし、俺がいちど何かをしてしまえば、守られてきた均衡が、一気に決壊する気が、した。
物音のしない部屋で、ぼうっとボスを通り越して物思いに、耽る。ふいに、視線を感じて現実に引き戻されると、どきりとするほど、鋭いボスの視線とかち合った。それも、ほんの一瞬でまたいつもの、本心を悟らせない、飄々とした雰囲気の視線に変わる。


「そーいや、何か飲むか?わりいな、喉渇いただろ」
「いや、いいぜ別に」
「そうか、腹は減ってねえか?」
「あー、今は別にいい。後で食うよ」
「そっか」


また沈黙が、訪れる。先刻の、ボスのあの目線はなんだったんだ?


「あ、そういや」
「どーした?」
「横領の件、どーなったんだ?まだ未処理だっただろ、早くしねえと」
「そんなら、もう片付いたぜ。今日は仕事の話は無しだっつっただろ」
「お前がやってくれたのか?」
「まあな」
「サンキュー」


いつもの軽い口調で、またわらい、上半身を起こした。顔色は、良くなっている、この分なら明日からは問題なく復帰できそうだな。と、冷静に解析している自分に嫌気が差した。…ボスを、こんな風に、したのは、一重に俺たちが祭り上げたせい、なのだ。
急に、目の前にボスの白い、華奢な手が伸びてきて、驚いて身を引く。ボスの右手が、左頬に触れて、軽く撫でる感触があった。
どきりと、するが、極めて平静を装いその手を優しく掴んで、ベッドにもどした。


「どーした?」
「なあ、お前まだ気にしてんのか」
「……何をだ?」
「知らばっくれんなよ」


溜息とともに吐き出す。枕にもたれかかり、上半身を起こしたまま、目を伏せた。ボスの長い睫が、目に覆いかぶさっている。


「俺は、別に気にしちゃいねーんだ。俺は、未熟だったし、…そりゃあ、今でもちょっと嫌になる事はあるけど、成長はしたつもりなんだぜ?」


淡々と語りだした。ボスの、薄い唇が動く。


「俺は、もう気にしてねえんだ。全然、あれは俺が悪かったってよく分かってんだ。何でボスになっちまったんだとか、今でも時々思うけどよ。あそこまで、追い詰められることもねえし、…だから、もう、忘れろよロマーリオ」


全てを、吐き出すように言って、呆気に取られているこちらを、見た。先刻と同じ、鋭い目線とぶつかり、思わず目を逸らした。


「…俺は、お前を恨んでなんかいねーんだから」
「………何のこと言ってんだ?ボス」


やっとの事で、そう口にする。ボスは、はは、じゃあ気にすんなと、また消え入りそうな、泣き出しそうな顔でわらった。その顔は、昔の、へなちょこだった、それでも一番自分に正直に生きていたときに、よく見せていた"誰が泣くかよ"と必死でこらえている顔に酷似していて、一瞬幼い頃の彼の顔と重なった。
沈黙が訪れる。相変わらず、ボスの安眠の為か、防音されている部屋は、物音一つしない。


「…なあ、どーやったら、治んかな、この発作」
「…さーな。ま、適度に息抜きすりゃあいいんじゃねえか?」
「医者も同じ事言ってたけどなあ」
「そりゃあ、医者の言う事を真似てるからな」


極力明るい口調で、続ける。動揺する心中を覆い隠して、わらった。ボスは、ころりと表情を変え、先ほどの応酬など無かったことのようにけらけらと笑っている。


「なあ、もう大丈夫だから、仕事させてくれよ」
「息抜きが必要だって、言っただろ」
「わーってるって。だから、明日の分を今からすっから、明日どっか連れてってくれよ」
「どっかって、どこにだ?」
「あー、観光とか?」
「今更どこに行くんだよ」


じゃあ、日本にでも行くかなあと、ボスが気楽そうにわらった。そうだ、ロマーリオ、明日日本に行こうぜ。なんて、言う。気楽に行ける立場ではないのだが、ボスのこういった我侭は、案外珍しいので、黙認する事に、しよう。


「なら、ドックから出しとかねえとな。もう身体は平気なのか?」
「平気っつーか、もともと病気じゃねえんだぜ?息抜きも必要なんだろ」
「リボーンさんに連絡いれとかねーとな」
「え、何でリボーンなんだ?」
「ボンゴレに会いにいくんだろ?」


きょとん、と目をぱちくりさせた。その後、はは、とまた笑う。


「そっか、…日本っつったらツナか」
「おいおい、何しに行くつもりだったんだ?」
「ん?いや、なんとなく日本が浮かんだからな」


ボスのその、納得したような、複雑そうな顔に疑問を覚える。ただ、胸中は未だ、"俺は、お前を恨んでなんかいねーんだから"がぐるぐると回っている。わらう、ボスの顔をともに。


「つーか、…そうだよな。まあ、そうか」
「何だ?他に何かあんのか」
「や、特に。息抜きに行く、っつーだけ。ツナには、会うかなあ」
「ボスの息抜きは、ボンゴレに会うことじゃねーのか?」


ふっと意味ありげに破顔した。もしかしたら、ボスは、ボンゴレに会うのを、そこまで喜ばしくおもってねーんじゃねえか、と疑念が沸く。考えてみれば、…彼は、昔のボスにそっくりで、その姿を見れば、心を痛めんのかも、しんねーな。


「なあ、明日俺の専用機じゃなくて、普通の旅客機に乗っていこうぜ。エコノミークラスでさ。俺と、ロマーリオだけで」
「何でわざわざ、エコノミーに乗るんだ?日本まで長げえんだ、今日倒れたばっかなんだから、普通に専用機に乗ってきゃいいだろ。それに、ボスと俺だけじゃあ、もし何かあったらどーすんだ。わりいが、そこまでは聞き入れなんねえな、ボスに何かあったら大変だぜ」


なんでもない、いつもの口調で、ボスの行き過ぎた我がままを優しく制御し(時々、ボスはこういった事を、言う)、少し下がってきた眼鏡を、いつもどおりの仕草で上にあげる。ボスが、その仕草をじいと見ていた。また視線がかち合う。…薄い唇が開いた。


「別に、言ってみただけだ」


























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