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雨が、降る。
今すぐにでも教室を飛び出したい衝動に駆られる。俺の席は窓からひとつ離れたところ。…灰色の雲が、雨のにおいを運んでくるのが分かった。時計を見る、授業終了まであと30分!その間に降ってしまう。…どうしよう、折角の雨なのに。レインマンに会えない!
今すぐ仮病を使って教室をでようか?ああでも、…どうしよう。本当にどうしようか。会いたいのに、ずっと会いたかったのに。
雨のにおいが濃くなっていくたびに、焦燥感も濃くなる。授業なんか見に入るわけがない、俺は会いたいんだ!…ゴロゴロと雲の音がした。ああ降る、もうすぐに降ってしまう。彼は今なにしてるかな。俺の部屋で待ってるかもしれない。
本当に、待ってるかな。俺が学校に行くってしってるから、来ないかも。残念だけど、彼を待たすよりはよいかもしれない。でも、会いたいよ。ミスターレインマン。俺はもう3週間も君に会ってないんだよ!
あ、また濃くなった。
多分、あと1分かそこらで雨が降る。今回の雨は長く続く見たいだから、君にすぐに会えるかな。雨、降って。とりあえず、降って。


ざああああああ、


あ、降った。灰色の雲から、灰色だか、透明だかよく分からない水滴が落ちてくる。あっという間に本降り。……雨に、ミスターレインマンに会えないなんて、そんなのひどい。ああでも、やっぱり俺は未成年で、学校に縛り付けられてて。だから自由に行動できないから、仕様がないよ。
なんて、訳の分からない理屈で自分を納得させようとしても、相変わらず焦燥感は止まない。どうしても、今すぐに走って会いに行きたい衝動に駆られるのに。首を強く左右に振って、手に持った緑の綺麗なシャーペンに目を落とした。




























…ざわざわ、と窓際から話し声が聞こえてくる。がたん、とひとりが立ち上がった。


「おい、あれなんだ!?」
「…異人だ!」
「おい、校庭に異人がいるぜ!」
「いやあ、気持ち悪いなにあの髪の毛!」


次第に、窓際に教師の制止も空しくクラスメイトが集まっていく。…異人?それって、それってもしかして!
勢いよく立ち上がると、人だかりができた窓に無理やり割って入った。
…………運動場の真ん中、少し校舎寄り。二階からでもハッキリと見えた。灰色の髪の毛。雨に打たれて、それでも、ずっと上を見ている。…目が合った気がした。


「おい、こっち見てねえ?」
「うわ、まじ気持ち悪いあの灰色の毛」


クラスメイトが半分笑いながら、そんな話をしている。ああ、ずっと、ずっと会いたかったのに!どうしてこんな所にいるのミスターレインマン!指差しながら、ひどい言葉を言うクラスメイトひとりひとりを殴ってやりたかった。
くるり、と振り返って走り出す。背中に、教師の制止の声が聞こえた。


こんなにも、自分は走るのが速かったっけ。と自分でも首を傾げるほど、廊下があっというまに背後に遠ざかった。ばたばたと階段を駆け下り、あっというまに下駄箱を通り過ぎて外へ出た。激しい雨粒がようしゃなく顔を叩く、口に入る。
ずっと上を見ていたミスターレインマンが、10メートル離れて立っている俺を見て嬉しそうににっこりわらった。上から、クラスメイトや、そのほかの人たちの声が聞こえた。


「おい沢田なにしてんだよ!」
「お前その異人の知り合いか?気持ち悪りぃ、そんなやつどっかやっちまえ!」
「殴れー!!」


面白半分に、ヤジを飛ばす。そのうち、ほかのクラスも異変に気が付いたらしい、大量の視線が背中に突き刺さった。
ミスターレインマンは笑ったまま、俺に向けて一歩歩みだす。

「…………」


黙ったままの俺に不思議そうな顔を向けた。
また一歩近づく。
会いたかったのに、どうしてこんなところに来るの?異人って、やめてよそんな事を言うの。ねえ、なんとかいったらどうなのミスターレインマン。君はあんな馬鹿みたいな人たちにひどいこと言われてるんだよ?俺は目立たず、過ごしてきたのに。…なんで。
ああ、ずっと会いたかったのに。
君に会いたかったのに。
一歩が踏み出せない。背後の声は次第に大きく、数を集めて響いていた。"殺せ""異人は死ね"なんて掛け声が集団心理で浸透し、俺の背中に突き刺さる。
どうして俺はでてきたんだろう。殺せ、?馬鹿なこと言わないで、ミスターレインマンは異人なんかじゃないのに!(……果たして、そうだろうか?)


「……どうしてここに来たの?」
また困ったようにわらった
「わらってないでちゃんと答えてよ!」
怒鳴った俺に、目を見開いて吃驚した表情を作った後、俯いて泣き出しそうな表情。


じくり、と心臓が痛んだ。
なんで俺はこんなこと言ってんだ?背後の声が怒声に変わる。殺せ、殺せ、異人は殺せ!
どうして彼がこんなこと言われてるの?どうして俺はこんなこと言ってるの。俺にどうしろっていうんだ?


「帰って」


これ以上君がこんな風に言われるのは嫌なんだ!
これ以上俺がこんな思いをするのは嫌なんだ!


ミスターレインマンが大きく目を見開いて、唇を咬んだ。雨が激しくなる。雨が、彼の頬に当たって涙みたいに流れていく。実際泣いているの?ねえ、俺はもうこんな思いしたくない。君がこんな風に言われるなんて我慢できない。


「君は、こんな風に言われてるんだよっ!?」


そういって、後ろの校舎を指差す。いつの間にかもっと増えた、顔顔、顔。みな一様に異人だ、異人は殺せ!なんて叫ぶ。気が狂ってる、おかしいのはあんたたちだ。なんでレインマンがこんなこと言われなくちゃならないの。彼は俺の、俺のだいすきなひとなのに!


「ねえ、なんか言ってよ!」
首をちいさく左右に降った。俺たちの距離は約8メートル。
「なんで喋らないの?悔しくないの!?」
ひどく傷ついたような顔で、また俯いた。


…口が、止まらない。後ろの怒声が頭のなかに響く。うるさいうるさいっ!


「俺は、こんな思いをするのは嫌だ!」


ずっと会いたかったのに。ずっと目を背けていたのに。この間のシスターに言われたことが、どれだけ嬉しかったか。でも、異人異人だ、と騒ぎ立てる後ろの大群。ねえ、異人じゃないでしょ。ねえ、なにか言ってよ。俺は君がこんな風に言われるのは嫌だよ!
俺はずっとずっと君に会いたかったのに。君はこんなところに来たらいけないんだ!


ぱくぱく、とまたお決まりの動作をする。
「……これ以上、ここにいちゃダメだ」
レインマンが一歩、俺に近づいた。その分だけ俺も距離を開ける。


今すぐにでも、集団で降りてきて、あいつらは君を袋叩きにしてしまう。ねえ、俺は嫌だ、嫌だよ!
ああさっきの夢のような、雨を待っていた気分はどこへいったの?君は、大切な友達なのに。大切なひとなのに。どうして俺はこんな事を言わなくちゃならないの!?


「帰って、」
大きく、零れそうなくらいに目を見開いて首をゆっくりと左右に振った後、レインマンがくるり、と振り返ってそのまま校門へ走っていく。


俺は、小さくなっていくその背中を、どうしても追っていきたくて。でも、でも。後ろの奴らがまだ怒声を飛ばしている。足が動かない。べしゃり、と濡れてぐしょぐしょになった運動場に膝立ちになった。
激しい雨が身体を容赦なく打つ。初めて会ったときも、こんな雨だった。俺に、傘を向けてくれたのに。俺は、彼を追い返してしまった。まだ耳にはやかましい騒音。後ろからばたばたとたくさんの人の足音がした。ばしゃばしゃ、と雨を弾く音。レインマンは、彼は、こんな足音じゃない。
腕が力なく、落ちる。雨が、顔を打って、もう涙なんだが雨なんだか、よく分からない。
後ろから肩をつかまれた。振り返ると、鬼のような顔をした担任が何か喋ってた。殺せ、殺せとまだ耳に騒音が残っていて、何を言っているのか分からない。半ば引きずられて、無理やり立たされた。大勢の視線の中を肩を捕まれたまま、どこかに連れて行かれる。そんなこと、どうだっていい。
耳にのこるのは、騒音。
目に残るのは、小さくなっていく背中。
…なんてことをしたんだろう、俺は。
雨の当たらない、校舎の中に入って初めて、自分の頬に伝ってるのは大量で大粒の涙だと知った。















Comming soon!



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